自閉傾向をもたらす遺伝性の病気である「脆弱X症候群」の謎が少しずつ解明に近づいているようだ。
「脆弱X症候群」とは
治療をめぐっては、米国ワシントン大学の研究グループが、ニューロン誌2015年4月号で病気につながるタンパク質の存在を報告している。このタンパク質を邪魔すると病気の克服にもつながるかもしれない。
脆弱X症候群は遺伝性の自閉傾向、知的障害を起こす病気だ。脆弱X症候群ではX染色体の「FRM1」という遺伝子の突然変異を起こしている。
自閉症の遺伝的原因としても最も多いと見られている。男性ではおよそ4000人に1人、女性では6000人に1人が発症する。
さらに、症状を示さず、この病気まで至らないものの、突然変異が小さく起きている人もいるようだ。前変異と呼ばれる状態になる人は、身体的に変化が表れたり、社会的不安やうつ病を発症する確率が高くなっていたりする。前変異を持つ人は男性では450人に1人、女性では150人に1人と多いとも言われている。米国内では現在、症状はないものの突然変異が少しある人は男性32万人、女性100万人と推定されている。
脆弱X症候群の発病者は、FRM1突然変異によって脳内のカギとなるタンパク質を作れない。研究グループは、このタンパク質のレベルを上げる方法を突き止めた。キャリアの症状を緩和する治療の可能性を開いている。
2種類のタンパク質が相互作用
研究グループが突き止めたのは、脆弱X症候群と関連していると見られる「Cdh1-APC」という酵素だ。
「長期抑制」と呼ばれる神経の余計な信号をカットする仕組みを邪魔すると分かった。脆弱X精神遅滞タンパク質と呼ばれるタンパク質は、この長期抑制を本来は支持しているが、異常が起こると、長期抑制の仕組みが破綻して、学ぶ力や記憶力を落としたりする。
このたびCdh1-APCと脆弱X精神遅滞タンパク質は相互作用を起こして、前変異にある人の精神的な異常にもつながっていると考えられた。
研究グループは、Cdh1-APCをブロックする仕組みがあれば、脆弱X症候群の症状を抑えられる可能性もあると見ている。
診断では血液検査も
さらに、脆弱X症候群の簡単な血液検査も実現するかもしれない。
オーストラリアのモナシュ大学を含む研究グループが、米国神経学会(AAN)の機関誌ニューロロジーオンライン版で2015年3月25日に報告しているものだ。
研究グループは、前変異を持つ女性35人(22〜55歳)、年齢や知能指数を合わせた前変異を持たない女性35人を対象として、目標を立てたり、効果的に行動を行ったりする能力、不安やうつ病を調べた。
さらに、脆弱X遺伝子の「メチル化」と呼ばれる状態を調べた。遺伝子のオンオフを切り替える仕組みだ。DNAの一部に「メチル基」と呼ばれる変化を起こして、遺伝子をオフにするという仕組みだ。
結果として、前変異を持つ女性では脆弱X遺伝子のメチル化レベルが高いと分かった。うつ病や社会的不安と遂行機能の問題を持つ確率が高くなっていた。
前変異があると、目標を立てたりする能力とうつ病や社会的な不安障害の症状が関係していた。前変異を持たない女性ではこの相関は見られなかった。
簡単な血液検査で脆弱X遺伝子の可能性について調べることができるかもしれないと研究グループは説明している。
遺伝性の病気だが、表に出ていない場合も多いと診られる。有望な検査になるのかもしれない。
文献情報
Discovery may open door for treating fragile X carriers
http://news.wustl.edu/news/Pages/Discovery-may-open-door-for-treating-fragile-X-carriers.aspx
Blood Test May Shed New Light on Fragile X Related Disorders. American Academy of Neurology Press Release. 2015 Mar 25.
https://www.aan.com/PressRoom/Home/PressRelease/1361
Cornish KM et al. Novel methylation markers of the dysexecutive-psychiatric phenotype in FMR1 premutation women. Neurology. 2015;84:1631-8.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25809302
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