「ご馳走さま」を言う相手が違うだろ!

沢山の女性とステキな食事を共にして来たのであろう、村上さん、ちょっと聞いてください。
僕は腹立たしくて仕方ありません。
気になっている女のコを食事に誘います。食べログで良さげな店を探し予約をします。予算も高めです。いつもチリなのにカリフォルニアワインを開けたり、女の子がトイレに立ってる間にお会計を済ませたりします。
正直言って、僕はデート界の優秀なクォーターバックです。蝶のように舞い蜂のように刺します。
じゃあ行こうか、なんて席を立つと、僕の経験から、ほぼ100パーセントの女の子が店員に向かって、「ご馳走様でした」とか言うんです……。

ちょっと待ってくれないか、と僕はいつも思います。
食事の材料費、調理費、サービス料、諸々、ノシ付けて俺が対価を支払ったじゃないかと……何ならお前がトイレの間に。ご馳走様と言われる資格があるのは、この店の中で唯一、俺しかいないだろうと。まず俺だろうと。
その御礼に何の意味があるのでしょう? 私って隅々まで気を遣える女よアピール? 
こういうのって、ちょっと前までムラムラしてた気持ちがモヤモヤに負けて、結局すぐ帰してしまいます。
僕は何か致命的に間違っておりますでしょうか? 
(カルマグD、男性、38歳、ラジオ局勤務)

美しい女性においしいものを食べさせてあげるというのは、憲法にこそ書いてありませんが、健康な成人男子に課せられた社会的責務の一つになっています。宗教的にいえば立派な善行です。せっせと励んでください。そのうちにきっと良いことがあります。もしこの世で良いことがなくても、死後に必ず良いことがあります。心配しないで、迷いなくデートを続けてください。蝶のように舞い蜂のように刺し続けてください。カード破産だけはしないように。

村上春樹拝