横浜市トップページ > 健康福祉局 > 横浜市衛生研究所 > 保健情報 > 保健の話題 > 死亡率・致死率(致命率)・死亡割合について
「エボラ出血熱の死亡率は50-90%と高く、・・・」というような記述を見かけることがあります。この記述は誤りで、正しくは、「エボラ出血熱の致死率(致命率)は50-90%と高く、・・・」です。ある病気Aの死亡率、あるいは、ある病気Aの致死率(致命率)といった場合、死亡率も致死率(致命率)も、割り算で、「ある病気Aの死亡者数」を割ることにより算出しますが、何で割るかが違います。死亡率の場合は、総人口で割ります。致死率(致命率)の場合は、「ある病気Aの患者数」で割ります。ですから、例えば、「B国でエボラ出血熱の死亡率は50%だった。」という場合には、「B国国民の総人口の半数がエボラ出血熱で死んでしまった。」ということになってしまいます。「B国でエボラ出血熱の致死率(致命率)は50%だった。」ということであれば、「B国ではエボラ出血熱患者の半数が死亡した」ということになります。日本では、2002年において死亡率が高いのは、死因の上位を占める悪性新生物(癌)、心疾患(心臓病)、脳血管疾患(脳卒中)といった死因です。日本では、2002年においてエボラ出血熱による患者も死者も発生していません。ですから、日本では、2002年においてエボラ出血熱の死亡率は、0%です。
死亡者数を使って算出する、公衆衛生の指標はいくつかあります。ここでは、死亡率、致死率(致命率)、死亡割合について、触れます。
「死亡率」=「一定期間における死亡者数」/「総人口」
上記の死亡率(death rate, mortality rate)は、粗死亡率(crude death rate)とも言います。総人口としては、日本・アメリカ合衆国といった国々のこともあれば、東京都や横浜市、川崎市といった行政単位のこともあります。一定期間としては、1年間が用いられるのが通常です。人口1000人あたりの率として、表示することが多いです。平成13(2001)年の日本における死亡率を計算してみましょう。日本の総人口としては、平成13(2001)年10月1日の推計人口125908000人を用います。平成13年1年間の日本の死亡者数は、970331人です。計算すると
「死亡率」=970331人/125908000人=0.007707=7.707人/1000人
となり、平成13(2001)年の日本における死亡率は、7.707(人口1000対)となります。
さて、どんな病気で亡くなる人が多いのかということを考える場合には、病気別の死亡者数を数えて、病気別の死亡率を計算します。
「ある病気Cの死亡率」=「一定期間におけるある病気Cによる死亡者数」/「総人口」
この死亡率は、死因別死亡率と呼ばれます。総人口としては、日本・アメリカ合衆国といった国々のこともあれば、東京都や横浜市、川崎市といった行政単位のこともあります。一定期間としては、1年間が用いられるのが通常です。人口10万人あたりの率として、表示することが多いです。近年、日本での死因の1位を独走しているガン(悪性新生物)について、平成13(2001)年の死因別死亡率を計算してみましょう。平成13年1年間の日本のガンによる死亡者数は、300658人です。日本の総人口としては、平成13(2001)年10月1日の推計人口125908000人を用います。計算すると、
「ガンの死亡率」=300658人/125908000人=0.002388=238.8人/100000人
となり、平成13(2001)年の日本におけるガンの死亡率は、238.8(人口10万対)となります。
さて、この死亡率ですが、国際間の比較に使おうと思うと不便な点があります。計算する際に総人口を必要とすることです。世界には、総人口がよくわからない国が少なくありません。総人口がわからないと、死亡率もわからないということになります。そこで、総人口がわからない場合でも計算できる、死亡割合が、発展途上国も含めた国際間の比較ではよく使われています。
死亡割合は、死亡者の統計によって計算されます。死亡者の死因や年齢などによって、分類して死亡者数を数えます。大きな分類Dの中に小さな分類Eが含まれる場合、
「大分類Dに占める小分類Eの死亡割合」=「小分類Eの死亡者数」/「大分類Dの死亡者数」
となります。%で表示することが多いです。日本の平成13(2001)年の全死因に占めるガン(悪性新生物)の死亡割合を計算してみましょう。平成13年1年間の日本のガンによる死亡者数は、300658人です。平成13年1年間の日本の死亡者数は、970331人です。計算すると、
「全死因に占めるガン(悪性新生物)の死亡割合」=300658人/970331人=0.310=31.0人/100人
となり、平成13(2001)年の日本における全死因に占めるガン(悪性新生物)の死亡割合は、31.0%となります。平成13(2001)年の日本における全死因に占める死因別の死亡割合は、1位(悪性新生物)から10位までで、下の表1の通りです。また、日本では、どこの部位のガンで亡くなる人が多いかということで、全ガン(悪性新生物)に占める部位別ガン(悪性新生物)の死亡割合が計算されることがあります。1位が気管,気管支及び肺の悪性新生物で18.3%、2位が胃の悪性新生物で16.6%となっています。タバコを吸うのは、控えましょう。
表1. 平成13(2001)年の日本における全死因に占める死因別の死亡割合
死因 | 死亡者数 | 死亡率(人口10万対) | 全死因に占める死亡割合(%) |
---|---|---|---|
全死因 | 970,331 | 770.7 | 100.0 |
悪性新生物 | 300,658 | 238.8 | 31.0 |
心疾患 | 148,292 | 117.8 | 15.3 |
脳血管疾患 | 131,856 | 104.7 | 13.6 |
肺炎 | 85,305 | 67.8 | 8.8 |
不慮の事故 | 39,496 | 31.4 | 4.1 |
自殺 | 29,375 | 23.3 | 3.0 |
老衰 | 22,145 | 17.6 | 2.3 |
腎不全 | 17,690 | 14.0 | 1.8 |
肝疾患 | 15,848 | 12.6 | 1.6 |
慢性閉塞性肺疾患 | 13,069 | 10.4 | 1.3 |
さて、年齢で分類して死亡者数を数え、算出する死亡割合があります。死因がわからなくても年齢がわかれば良いです。どこの国でも比較的算出されやすい公衆衛生の指標です。死亡総数に占める50歳以上の死亡割合(PMI 50:Proportional Mortality Indicator 50)です。%で表示することが多いです。
PMI 50=「50歳以上の死亡者数」/死亡総数
PMI 60=「60歳以上の死亡者数」/死亡総数
PMI 80=「80歳以上の死亡者数」/死亡総数
PMI 85=「85歳以上の死亡者数」/死亡総数
公衆衛生の状態が良ければ良いほど、長生きし、死亡者の年齢は高い人が多くなると考えられます。100%に近いほど公衆衛生の状態は良好と考えられます。日本のPMI 50は、2000年で93.6%で世界的にも高いレベルです。
「ある病気Cの致死率」=「一定期間におけるある病気Cによる死亡者数」/「一定期間におけるある病気Cの患者数」
致死率(case-fatality rate)は、死因ともなりえる急性の病気の流行が起こったときに、よく使われます。一定期間とは、流行期間に留まらず、ある病気Cによるすべての死亡を見届けるのに十分な期間です。すべての患者は、病気Cが原因で死亡するかしないかが、はっきりするまで経過を追われます。エボラ出血熱の致死率は50- 90%、新型肺炎SARSの致死率は14-15%とされています。
致死率(致命率)と死亡率とは、違います。間違いのないように、用語を使い分けましょう。
平成24 年(2012年)9月6日発表の厚生労働省「平成23年 人口動態統計(確定数)の概況」によります。
日本の総人口としては、平成23(2011)年10月1日の推計人口126,180,000人(総務省統計局)を用いています。
平成23(2011)年の日本における全死因に占める死因別の死亡割合は、下の表2のとおりです。
表2. 平成23(2011)年の日本における全死因に占める死因別の死亡割合
死因 | 死亡者数 | 死亡率(人口10万対) | 全死因に占める死亡割合(%) |
---|---|---|---|
全死因 | 1,253,066 | 993.1 | 100.0 |
悪性新生物 | 357,305 | 283.2 | 28.5 |
心疾患 | 194,926 | 154.5 | 15.6 |
肺炎 | 124,749 | 98.9 | 10.0 |
脳血管疾患 | 123,867 | 98.2 | 9.9 |
不慮の事故 | 59,416 | 47.1 | 4.7 |
老衰 | 52,242 | 41.4 | 4.2 |
自殺 | 28,896 | 22.9 | 2.3 |
腎不全 | 24,526 | 19.4 | 2.0 |
慢性閉塞性肺疾患 | 16,639 | 13.2 | 1.3 |
肝疾患 | 16,390 | 13.0 | 1.3 |
悪性新生物(がん)は、昭和56年(1981年)以後、脳血管疾患にかわって死因第1位となりました。全死亡者の約3.5人に一人は、悪性新生物(がん)で死亡しています。
心疾患(心筋梗塞・狭心症等)は、昭和60年(1985年)以後、脳血管疾患にかわって死因第2位となりました。全死亡者の約6.5人に一人は、心疾患(心筋梗塞・狭心症等)で死亡しています。
肺炎は、平成23年(2011年)、脳血管疾患にかわって死因第3位となりました。全死亡者の約10人に一人は、肺炎で死亡しています。
脳血管疾患(脳梗塞・脳出血等)は、昭和26年(1951年)、結核にかわって死因第1位となりました。昭和45年(1970年)をピークに低下が見られました。昭和56年(1981年)、悪性新生物(がん)にかわって死因第2位となりました。昭和60年(1985年)、心疾患(心筋梗塞・狭心症等)にかわって死因第3位となりました。平成23年(2011年)、肺炎にかわって死因第4位となりました。全死亡者の約10人に一人は、脳血管疾患(脳梗塞・脳出血等)で死亡しています。なお、結核は、平成23年(2011年)、死因第25位(死亡者数2,162人) です。
不慮の事故は、平成23年(2011年)、東日本大震災の影響で大幅増加して、老衰にかわって平成22年(2010年)の死因第6位(40,732人)から死因第5位となりました。全死亡者の約21人に一人は、不慮の事故で死亡しています。なお、全死亡者の約24人に一人は、老衰で死亡しています。
従来、3大死因として、悪性新生物(がん)、心疾患(心筋梗塞・狭心症等)、脳血管疾患(脳梗塞・脳出血等)の3疾患が注目されて来ました。肺炎が、平成23年(2011年)、脳血管疾患にかわって死因第3位となったことから、今後は、肺炎も加えた4大死因として、肺炎にも注意して行く必要があります。
平成24 年(2012年)10月10日、アメリカ合衆国CDCの国立保健統計センター発行の「死亡統計: 2011年(暫定数)」によります。
アメリカ合衆国の総人口としては、平成23(2011)年7月1日の推計人口311,591,917人(アメリカ合衆国商務省国勢調査局: U.S. Census Bureau)を用いています。
平成23(2011)年のアメリカ合衆国における全死因に占める死因別の死亡割合は、下の表3のとおりです。
表3. 平成23(2011)年のアメリカ合衆国における全死因に占める死因別の死亡割合
死因 | 死亡者数 | 死亡率(人口10万対) | 全死因に占める死亡割合(%) |
---|---|---|---|
全死因 | 2,512,873 | 806.5 | 100.0 |
心疾患 | 596,339 | 191.4 | 23.7 |
悪性新生物 | 575,313 | 184.6 | 22.9 |
慢性下気道疾患 | 143,382 | 46.0 | 5.7 |
脳血管疾患 | 128,931 | 41.4 | 5.1 |
不慮の事故 | 122,777 | 39.4 | 4.9 |
アルツハイマー病 | 84,691 | 27.2 | 3.4 |
糖尿病 | 73,282 | 23.5 | 2.9 |
インフルエンザ及び肺炎 | 53,667 | 17.2 | 2.1 |
腎不全 | 45,731 | 14.7 | 1.8 |
自殺 | 38,285 | 12.3 | 1.5 |
アメリカ合衆国における死因の一位は、心疾患(心筋梗塞・狭心症等)です。アメリカ合衆国においては、心臓病対策は大きな課題です。
表2と表3とを、死亡率(人口10万対)および全死因に占める死亡割合に注目して比較すると、アメリカ合衆国で多いのは、心疾患(心筋梗塞・狭心症等)などです。日本で多いのは、悪性新生物(がん)、脳血管疾患(脳梗塞・脳出血等)、自殺などです。
2003年5月22日掲載
2012年6月13日増補
2012年10月29日増補改訂