評価は「及第点」も「功罪半ば」、量的・質的緩和2年-日銀サーベイ
2015/04/06 06:00 JST
(ブルームバーグ):黒田東彦総裁が2%の物価目標を約2年で実現すると表明し、量的・質的金融緩和を導入してから、ちょうど2年経った。足元の消費者物価上昇率はゼロ%と目標から遠いが、エコノミストは円安や株高を評価して及第点を付けた。もっとも、功罪は相半ばしており、出口を迎えるまでの中間評価に過ぎないとの声も出ている。
ブルームバーグ・ニュースが3月31日から3日にかけてエコノミスト34人を対象に調査を行った。量的・質的金融緩和が経済、物価、金融市場に及ぼした影響を総合的に評価すると何点かという質問に対し、回答した30人の平均は62点、中央値は70点と、いずれも100点満点の及第点(60点)をクリアした格好だ。
原油価格の下落もあって、2月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除いたコアCPI)は、増税の影響を除くベースで前年比ゼロ%に落ち込んだ。しかし、量的・質的緩和のプラス面として多くのエコノミストが挙げたのが、為替の円安と株高をもたらしたことだ。
70点を付けたクレディ・アグリコル証券の尾形和彦チーフエコノミストは「消費増税が冷や水となり景気はもたついているが、とは言え、ドル円相場は最安値から60%円安が進行して1ドル=120円台を付け、日経平均株価も15年ぶりとなる2万円近傍にまで急上昇。コアCPIも一時的ながら昨年4月に1.5%までの上昇を見せた」と指摘。
「原油価格急落により足元で物価はゼロに逆戻りしたが、良い意味でも悪い意味でも日本人のデフレマインドは転換しつつあり、それに日銀の『異次元緩和』が顕著な影響を及ぼしたのは間違いない」という。
どちらが良かったかは明らか75点のメリルリンチ証券の吉川雅幸チーフエコノミストは「2014年の名目成長率は前年比1.6%のプラスで13年から加速、日本経済の稼ぐ力は高まった。1人当たり現金給与は12年が0.7%減、13年が0.0%、14年が0.8%増と着実に改善。雇用も高い伸びを示しており、大きな成果を挙げている」と指摘。
「格差の拡大など批判点もあることは事実だが、量的・質的緩和実施前の状況-マイナスの名目成長による財政悪化、実質金利高止まりによる設備投資の抑制・生産性低下・潜在成長率低下、異常ともいえる円の過大評価による急速な産業空洞化-と比較すれば、どちらが良かったかは明らかだ」という。
できるなら120点与えたいという大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストは「黒田総裁は自身の職責の範囲内で極めて効果的な政策を行い、最大限の成果を上げている」と指摘。「黒田日銀に負担がかかり過ぎており、ポピュリズム的な様相が払拭(ふっしょく)できないことこそが最大の問題だ。ボールは完全に政府に投げられている」という。
あくまで中間評価90点の伊藤忠経済研究所の武田淳主任研究員も「為替相場に円安基調をもたらしたことは、たとえ弊害があってもデフレ脱却を最優先課題とすれば、その道筋を付けたことを評価すべきだ」と指摘。
「金融緩和の規模の大きさに対して副作用を懸念する向きも少なからずあるが、リスクを冒さなければデフレ脱却を成し得ないことはコンセンサスだったはずであり、代案がない上、日本経済が財政健全化という時限性のある課題を抱えていることに鑑みれば、これまで誰も成し得なかった勇気ある決断を最大限に評価したい」という。
70点のバークレイズ証券の森田京平チーフエコノミストは「金融政策は『出口』を出て初めて評価対象となるので、今の段階ではあくまで中間評価に過ぎない」と指摘。「デフレ脱却に向けた大きな一歩を築き、過度な円高を修正した点は評価されるべき」としながらも、「将来の出口次第で、この評価が撤回されるリスクも残る」という。
低評価のエコノミストの多くが挙げるのがこの出口の問題だ。40点のJPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは「家計・企業の景況感が改善した点と、財政健全化と成長戦略を実施するための時間稼ぎを行ったことは評価できるが、出口戦略につまずいては元も子もない。軟着陸可能な出口戦略を提示するまで及第点とは言えない」という。
市場機能低下への懸念も同じく40点の明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミストは「円安・株高の実現は大きな成果だが、量的・質的緩和に景気・物価の直接的な押し上げ効果がさほどないことも明らかになってきた」と指摘。一方で、「事実上の財政ファイナンスにますます近づいており、出口政策への不透明感はきわめて強い」という。
市場機能の低下を懸念する声もある。50点のSMBC日興証券の森田長太郎チーフ金利ストラテジストは「通貨安のうち半分程度は欧州債務危機によって過剰に生じていた円高の反動の部分と考えられ、これほどまでの政策を打たなくても自然に生じていたものだろう」と指摘。
「債券市場を実質公的管理に置き、株式市場までも半ば公的相場にしてしまっていることの長期的な弊害と併せて考えても、満点の半分ということになるのではないか」という。
最低の評価も同じく50点のゴールドマン・サックス証券の馬場直彦チーフエコノミストは「為替・株式市場などの金融市場では想定以上のレジーム・シフトを演出したが、コミットメント対象の物価は、エネルギーを除いても、2年で達成できると断言した2%からは程遠く、信認喪失リスクに直面している」という。
30点と最低評価の大和証券の野口麻衣子シニアエコノミストは「株は上昇したが景気浮揚や物価上昇にはつながらなかった。期待に働き掛けることを主眼に置いた結果、政策効果を実態以上に喧伝(けんでん)しつつ、退路を断って実務的に限界に近い緩和策を実行することになり、市場の不安定化を招いたことなどから評価できない」としている。
日銀ウオッチャーを対象にしたアンケート調査の項目は、1)今会合の金融政策予想、2)追加緩和時期と手段や量的・質的金融緩和の縮小時期および「2年で2%物価目標」実現の可能性、3)日銀当座預金の超過準備に対する付利金利(現在0.1%)予想、4)コメント-。
1)日銀はいつ追加緩和に踏み切るか? ================================================================== 調査機関数 34 100% ------------------------------------------------------------------ 4月8日 0 0.0% 4月30日 3 8.8% 5月 0 0.0% 6月 2 5.9% 7月 6 17.6% 8月 1 2.9% 9月 0 0.0% 10月7日 1 2.9% 10月30日 9 26.5% 11月 0 0.0% 12月 0 0.0% 2016年1月 1 2.9% 2016年2月 0 0.0% 2016年3月 0 0.0% 2016年4月以降 1 2.9% 追加緩和なし 10 29.4% ================================================================== 2)追加緩和の具体的な手段 ------------------------------------------------------------------ マネタリーベースの増加ペースの引き上げ 18 長期国債の買い入れペースの引き上げ 14 ETFの買い入れペースの引き上げ 18 J-REITの買い入れペースの引き上げ 9 付利の引き下げ 4 の他 5 ================================================================== 3)日銀は生鮮食品を除く消費者物価(コアCPI、消費増税の影響を 除く)前年比が2016年度の「見通し期間の中盤頃に2%程度に達する 可能性が高い」としてますが、この見通しは実現しますか。 ================================================================== 調査機関数 31 ------------------------------------------------------------------ はい 3 いいえ 28 ================================================================== 4)日銀が2%の「物価安定の目標」が安定的に持続すると判断し、 量的・質的金融緩和の縮小を開始する時期はいつ? ------------------------------------------------------------------ 調査機関数 32 ------------------------------------------------------------------ 2015年上期 0 0.0% 2015年下期 0 0.0% 2016年上期 1 3.1% 2016年下期 3 9.4% 2017年上期 0 0.0% 2017年下期 4 12.5% 2018年以降 9 28.1% 見通せず 15 46.9% ================================================================== 5)黒田総裁は17日の会見で、消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI、増税の影響除く) 前年比は「エネルギー価格などの動向によっては若干のマイナスになることも 排除はできない」と述べました。この発言によって年内の追加緩和の可能性は 高まったとお考えですか。 ------------------------------------------------------------------ 調査機関数 30 ------------------------------------------------------------------ 高まった 3 低くなった 6 どちらでも言えない 21 ================================================================== 6)原田泰審議委員が26日、就任会見を行いました。黒田総裁が年内に追加緩和 を提案した場合、原田委員は賛成すると思われますか。 ------------------------------------------------------------------ 調査機関数 31 ------------------------------------------------------------------ はい 31 いいえ 0 ================================================================== 7)春闘の集中回答の結果が出ました。ベアは0.8%(昨年0.4%)、月給平均上昇は2.43% (同2.07%)と、ともに昨年の水準を上回りました。a)この結果、賃金、物価がともに持続的に 上昇していく好循環が実現すると思われますか。 ------------------------------------------------------------------ 調査機関数 32 ------------------------------------------------------------------ はい 18 いいえ 14 ================================================================== 8)黒田総裁の下で量的・質的金融緩和が導入されて2年が経ちました。経済、物価、 金融市場に及ぼした影響を総合的に評価すると、何点(満点100点)になりますか。 ------------------------------------------------------------------ 調査機関数 31 ------------------------------------------------------------------ 中央値 70 平均 62 最高 100 最低 30 ================================================================== 問1に対しての回答の詳細 ------------------------------------------------------------------ メリルリンチ証券、吉川雅幸 10月7日 バークレイズ証券、森田京平 7月 BNPパリバ証券、河野龍太郎 追加緩和なし シティグループ証券、村嶋帰一 7月 クレディ・アグリコル証券、尾形和彦 10月30日 クレディ・スイス証券、白川浩道 4月30日 第一生命経済研究所、熊野英生 10月30日 大和総研、熊谷亮丸 10月30日 大和証券、野口麻衣子 追加緩和なし ゴールドマン・サックス証券、馬場直彦 7月 HSBCホールディングス、デバリエ・いづみ 6月 伊藤忠経済研究所、武田淳 7月 ジャパンマクロアドバイザーズ、大久保琢史 追加緩和なし 日本総合研究所、山田久 追加緩和なし JPモルガン証券、菅野雅明 7月 明治安田生命保険、小玉祐一 10月30日 三菱UFJモルガンスタンレー証券、六車治美 10月30日 三菱UFJモルガンスタンレー景気循環、景気循環研 嶋中雄二 4月30日 三菱UFJリサーチコンサルティング、小林真一郎 4月30日 みずほ総合研究所、高田創 10月30日 みずほ証券、上野泰也 10月30日 ニッセイ基礎研究所、矢嶋康次 7月 野村証券、松沢中 追加緩和なし 農林中金総合研究所、南武志 追加緩和なし 岡三証券、鈴木誠 追加緩和なし 信州大学、真壁昭夫 6月 三井住友銀行、西岡純子 追加緩和なし SMBCフレンド証券、岩下真理 10月30日 SMBC日興証券、森田長太郎 2016年1月 ソシエテジェネラル証券、会田卓司 10月30日 三井住友アセットマネジメント、武藤弘明 追加緩和なし 東海東京証券、佐野一彦 追加緩和なし 東短リサーチ、加藤出 2016年4月以降 UBS証券、青木大樹 8月 ================================================================== 問8に対しての回答の詳細 ------------------------------------------------------------------ メリルリンチ証券、吉川雅幸 75 バークレイズ証券、森田京平 70 BNPパリバ証券、河野龍太郎 30 シティグループ証券、村嶋帰一 - クレディ・アグリコル証券、尾形和彦 70 クレディ・スイス証券、白川浩道 75 第一生命経済研究所、熊野英生 70 大和総研、熊谷亮丸 100 大和証券、野口麻衣子 30 ゴールドマン・サックス証券、馬場直彦 50 HSBCホールディングス、デバリエ・いづみ - 伊藤忠経済研究所、武田淳 90 ジャパンマクロアドバイザーズ、大久保琢史 60 日本総合研究所、山田久 55 JPモルガン証券、菅野雅明 40 明治安田生命保険、小玉祐一 40 三菱UFJモルガンスタンレー証券、六車治美 78 三菱UFJモルガンスタンレー景気循環、景気循環研 嶋中雄二 80 三菱UFJリサーチコンサルティング、小林真一郎 30 みずほ総合研究所、高田創 60 みずほ証券、上野泰也 30 ニッセイ基礎研究所、矢嶋康次 70 野村証券、松沢中 70 農林中金総合研究所、南武志 70 岡三証券、鈴木誠 80 信州大学、真壁昭夫 70 三井住友銀行、西岡純子 70 SMBCフレンド証券、岩下真理 70 SMBC日興証券、森田長太郎 50 ソシエテジェネラル証券、会田卓司 - 三井住友アセットマネジメント、武藤弘明 65 東海東京証券、佐野一彦 55 東短リサーチ、加藤出 30 UBS証券、青木大樹 90 ----------------------------------------------------
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更新日時: 2015/04/06 06:00 JST