引退発表はあまりにも突然だった。
昨年末に長野で行なわれていた全日本選手権で4位になった町田樹は、世界選手権の代表として名前を呼ばれるとリンクに登場し、こう切り出した。
「突然ではありますが、皆様にご報告したいことがあります。私は、この全日本選手権大会をもって、現役のフィギュアスケート選手を引退することを本日、決断いたしました」
このとき、リンクサイドで聞いていた鈴木明子も、「まさか、そんはずは……。ドッキリなんじゃないか」と耳を疑ったという。
会場にも、早すぎる引退を惜しむ人々のざわめきが起こった。
町田は何故、引退を決断したのか――。
このことを聞くために、発売中のNumber875号で、スポーツライターの松原孝臣氏が町田を指導していた大西勝敬コーチのもとを訪ねた。
引退を知って大笑いした大西コーチ。
大阪府高石市のホームリンクの一室で、大西氏は楽しい思い出であるかのように振り返った。
「(引退を)知ったときは、嫁はんと大笑いしました。あの子らしいな、と」
突然の発表でもあり、迷惑をかけた関係者に謝罪の電話をしながらも、大西は愛弟子の決断を温かく受け止めていた。
大西が町田を指導するようになったのは、ソチ五輪まで1年を切った'13年3月だった。
「僕は6番目(の選手)ですから」などと、弱気な発言を繰り返す町田に大西はこう語りかけた。
「人間はな、消極的なことを言うたら、そうなっていくで。有言実行が大事やで。(大きな目標を)言うことで、やらないかんと頑張っていくんちゃう?」
以来、町田は、弱気の発言を封印する。
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