台湾新幹線「破綻」の危機 株引き受け企業が相次ぎ提訴
qBiz 西日本新聞経済電子版 4月6日(月)11時8分配信
台湾の新幹線が経営危機に陥っている。日本の新幹線技術の「輸出成功例」とされてきた台湾高速鉄道(高鉄)。当局は、早急に財務状況を改善できなければ「破綻は避けられない」とまでいう。なぜこんなことになってしまったのか。これからどうなるのか。 (台北・横尾誠)
台湾新幹線は民間企業の高鉄が建設と運営を担い、35年後には資産を当局に引き渡すBOT方式で整備された。2007年の開業以来大きな事故もなく、新幹線そのものの評価は決して低くない。
問題は財務構造である。
およそ4800億台湾元、日本円で1兆8千億円超という巨額の建設費の大半を融資で賄ったため、当初から利払いが膨大で、利息支出は営業収益の7割に達しているとみられている。これでは本業でいくら稼いでも楽にならない。
乗客数は現在1日13万人を超える。開業時からすれば努力して増やした。それでも当初予測の半分に満たない。累積赤字は約470億台湾元(約1800億円)。要するに最初の事業計画が楽観的に過ぎた。
この財政問題は周知の事実だったが、ここにきて破綻が取りざたされているのは「特別株」のせいだ。
高鉄は過去に資金調達のため、約400億台湾元分の特別株(利付き社債)を発行した。だが財政難で配当を支払ってこなかったため、株を引き受けた企業が配当の支払いなどを求めて相次いで提訴。3月には二審で敗訴し、今月中にも上告審で判決が確定する可能性がある。高鉄には今、手元に資金が18億台湾元しかなく、一斉に支払いを求められた場合、破産は避けられない、という。
監督官庁の交通部(交通省)は、このままでは「高鉄を接収(公営化)するしかなくなる」として、財務改善案をまとめ、破綻回避の道を模索している。高鉄の資本金を取り崩して損失を一掃した上で増資、35年の高鉄の運営期間を75年に延長して単年度の減価償却費を抑える再生策だった。
ところがこの案は今年1月、立法院(国会)で否決され、交通部長(交通相)が引責辞任する事態に発展した。交通部は市民から広く出資を募る形に手直しした新案をまとめたが、成立の見通しは立っていない。
背景には、思いのほか厳しい市民感情がある。識者によると、高鉄をめぐっては、一部台湾メディアがこれまで批判を繰り返し「当局と癒着した大企業が高鉄を食い物にしている」といった風評が消えていない。また特別株訴訟には高鉄株主も原告として参加しており「破綻危機は単なる演出」との声もあるのだという。
台湾の経済評論家の馬凱氏は「駅周辺の開発遅れなど高鉄の経営手腕に問題はあるが、大地震による開業遅れで建設費が増大したことや、当局の要請による高齢者割引の減収が大きいことなど同情すべき点もある」と指摘。「破綻は誰も望んでおらず回避は可能。ただ来年1月に総統選を控え、与野党とも難題を急いで処理したくはないだろう」と話している。
西日本新聞社
最終更新:4月6日(月)11時8分