栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 症候性頭蓋内動脈硬化症へのステント治療/急性副鼻腔炎への全身性ステロイド投与/HIV共感染HCVへのsofosbuvirとledipasvir併用/肺線維症への新規薬剤認可を巡って/糖尿病性黄斑浮腫に対する治療

■JAMA■

症候性頭蓋内動脈硬化症へのステント治療 
Effect of a balloon-expandedable intracranial stent vs medical therapy on risk of stroke in patients with symptomatic intracranial stenosis:The VISSIT randomized clinical trial*1

 血管内治療については、冠動脈疾患では確立されているものの、頭蓋内動脈硬化に対してはなかなか厳しいものがあります。同時期に行われたSAMMPRIS研究では、ステント治療による害が多い結果でしたが、今回頭蓋内動脈硬化病変に対するステント治療の効果について検証したRCTが掲載されていました。
 論文のPECOは、

P:脳梗塞もしくはTIA既往のある症候性頭蓋内動脈硬化病変を持つ18-75歳の患者 250人を目標
   動脈硬化病変は血管造影検査で70%以上の狭窄患者を組み入れ
   心原性塞栓は除外、mRS>4の重度障害患者も除外
E:ステント+内服治療(90日DAPT、LDL<100目標にスタチン、血圧<140mmHg)
C:内服治療のみ
O:1年後の狭窄血管責任領域の脳梗塞もしくはTIAcomposite outcome
T:多施設多国籍RCT
結果:
 対象年齢は62歳、脳梗塞既往が62%
 SAMMPRIS研究を受けて中間解析を行ったところ、有害事象有意に多い事が判明し途中で終了
 プライマリアウトカムである1年後のStroke+TIAステント治療群で21/58(36.2%)、通常治療群で8/53(15.1%)とステント治療群の方が有意に増加。

 今回、頭蓋内動脈硬化病変に対する3つめのRCTだそうです。過去の研究ではWASID trialアスピリン vs ワーファリンを検証した結果、アスピリンの方が予後が良い事が判明。その後のSAMMPRIS研究ではステントと内服治療を比較したところ、ステント群の方が有害事象が増え途中終了。で、今回も同様の結果でした。
 一つは、DAPT 90日後併用が予想以上にイベント再発率を減らしたということも誘因に挙げられています。血管内治療は脳血管領域ではなかなか厳しい雲行きです。さてさて、今後どうなっていくか・・・

✓ 症候性頭蓋内動脈狭窄病変に対するステント治療は内服管理群よりも脳梗塞TIAが増えた


急性副鼻腔炎への全身性ステロイド投与 
Systemic corticosteroid therapy for acute sinusitis*2

 JAMAのEvidence synopsisです。急性副鼻腔炎に対してステロイド全身投与なんてするかなあ・・・とか思っていますが、意外とstudyもあるみたいです。確かに某耳鼻科などでは、抗菌薬・ステロイド・抗ウイルス薬などチャンポンで入ってしまうことも結構ありますもんね。さて、このテーマで検索してみると、過去に5つのRCTが見つかる模様です。患者数にして1193人。

 このうち、4つのRCTは抗菌薬+ステロイド vs 抗菌薬+プラセボ的な研究で、残りの1つがステロイド vs プラセボの比較です。前者の抗菌薬併用群の研究では、3-7日後の症状改善率が、RR 1.4(95%CI:1.08-1.81)と有意ステロイド群が症状を改善しました。一方で、ステロイド単独 vs プラセボでは、7日後の症状改善率が、RR 1.12(05%CI:0.87-1.44)と有意差を認めず、抗菌薬と併用する場合には効果あるかも知れないという結果でした。
 ただ、メタ解析をすると異質性が高く、なかなか統合した結果解釈というわけにはいかなそうなことと、脱落者の多いRCTが中心で、RCTの質の問題もあり、現時点では確定的という結果ではないと思われます。
 
 そもそもガイドラインレベルでは、欧州は抗菌薬と併用すると良いかもしれないが標準治療ではない、米国では、効果が無いとバッサリコメントされていました。今後はプライマリケアレベルでの大規模RCTが必要になると思いますが、副鼻腔炎ごとき(失礼・・・)でステロイド内服が始まることは心配だなと感じています。まあ、そもそも副鼻腔炎のstudyって副鼻腔炎の診断を何でしてるかが重要で、画像のみとかも結構あるので要注意です。

✓ 急性副鼻腔炎に対する全身性ステロイドは抗菌薬を併用すると効果があるかもしれない


HIV共感染HCVへのsofosbuvirとledipasvir併用 
Virological response following combined ledipasvir and sofosbuvir administration in patients with HCV genotype 1 and HCV co-infection*3

 今週はLancetのHCV reviewを紹介しました。最近本当にHCV関連のstudyが多いわけですが、今回はよりhigh risk群であるHIV共感染患者に対するインターフェロンフリーレジメンのRCTです。
 論文のPECOは、

P:HIV感染を合併している無治療HCV type1患者50人
   肝硬変は除外(肝生検もしくはFibroscan)
E:Sofosbuvir+Ledipasvir 12週間
C:なし
O:12週間後のSVR
T:前向きコホート研究/パイロット研究
結果:
 50人の患者のうち49人(98%:89-100%)が12週時点でSVRを達成
 治療終了4週間後に1例の再発を認めた。
 最も多い副作用は鼻汁(16%程度)、倦怠感(14%)

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(本文より引用)

 
 ひとまず、ものすごい結果です。HIVHCV共感染に対するインターフェロンフリーレジメンでこれだけのSVR率は過去にない結果なんだそうです。それにしてもどんどん治療期間も短縮されるし、副作用も少なくなるなあ。あとは費用対効果と治療適応の選択でしょうね。

✓ HIVHCV共感染患者に対するSofosbuvir+Ledipasvir 12週間治療はSVR率は98%


■NEJM■

肺線維症への新規薬剤認可を巡って 
Forced vital capacity in idiopathic pulmonary fibrosis-FDA review of Pirfenidone and Nintedanib*4

 今回FDAがPirfenidone(ピレスパ)を認可しました。日本ではいち早く2008年に認可されていますが、今回今回のピルフェニドン認可についてFDAの肺・アレルギー・リウマチ部門の担当者であるBanuさんがコメントしていました。FDAは2014年10月に肺線維症に対する2つの薬剤を認可しました。一つがPirfenidoneでもう一つがNintedanibという任天堂みたいな名前の薬剤です。2剤の認可にあたって焦点になったのは

「FVCの改善」は肺線維症の予後予測のサロゲートマーカーになるのか?

とう点です。

 実はPirfenidoneは2010年時点で、FDAから適応申請をrejectされています。当初Pirfenidoneの適応については、2つの大規模RCT(72週)によって、検討されました。で、この2つのRCTの結果が、一方はFVCを改善し、一方はFVCを改善しなかったというconflictな結果でした。多くの専門家もFDAの判断に同意しています。日本はこの時点で既に発売を承認していました・・・で、今回2014年3月に3つめの大規模RCTが発表され、この結果はFVCは改善したが死亡は減らさずという結果でした。この結果は以前ブログでも紹介していました。

tyabu7973.hatenablog.com


 一方、Nintedanibは、2014年にFDA申請があり、3つのRCTが検証されました。全てのRCTでFVCを有意に改善し、有意差はつかなかったものの死亡は少ない傾向でした。

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(本文より引用)

 肺線維症のアウトカムのサロゲートマーカーとして、FVCはcontroversialとされています。否定する文献も肯定する文献もあり、臨床的意義も不明です。ただ、今回のPirfenidone・Nintedanibのstudyの結果を合わせると、FVCが有意に改善した研究では死亡が少ない傾向で、FVCが有意に改善しなかった研究では死亡に差がないということが分かり、肺線維症のサロゲートマーカーにして良いのでは?と結論し、FDAとしても薬剤認可に至ったという経緯です。

 認可が遅れたことについても言及していますが、日本で2008年時点で認可しているが、その時点で得られたデータからは認可は出来なかったこと、効果の無い薬剤を安易に認可しない、吟味する義務があるとコメントしていました。

✓ Pirfenidoneはconflictな結果から肺線維症の治療効果が十分あるかのエビデンスが乏しく認可が遅れた。認可にあたって、きちんと臨床データを吟味する能力は必須


糖尿病性黄斑浮腫に対する治療 
Treatment choice for diabetic macular edema*5

 糖尿病性網膜症による変化が黄斑に及ぶと視力低下や失明に繋がり、黄斑浮腫が話題になってきています。これまではレーザー治療が腫瘤の治療でしたが、最近抗VEGF注入療法が登場し、治療は劇的に変わったという現状があります。で、実はこの抗VEGF注入薬が3種類あり、それらの製剤による違いをガチンコRCTで比較した研究が出ていました。

 検証された3剤は、Aflibercept(アイリーアⓇ)、Bevacizumab(アバスチンⓇ)、Ranibizumab(ルセンティスⓇ)がRCTで検証され、どの薬剤の硝子体注射も視力を改善した。結果はベースラインの視力によって効果が異なることも分かっており、視力良い人ではどの薬剤でも効果は同等で、アイリーアⓇ(Aflibercept)は視力悪い人での効果が最も良いと言う結果でした。

 上記結果を受けて、ベースラインの視力が良い症例では、Bevacizumab(アバスチンⓇ)が最も薬価が安いので良い適応になります。また、視力が悪い人には、Aflibercept(アイリーアⓇ)が良い適応です。ちなみに薬価は、アイリーアⓇは1本15万9289円、アバスチンⓇは100mgで1本4万5563円、ルセンティスⓇは1本17万6235円でした。高いなあ。

✓ 糖尿病性黄斑変性に対する治療はレーザー治療<抗VEGF眼内注入療法が主流