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雨宮寛二「新・IT革命」

迷走のグーグルグラス、なぜ撤退から一転し茨の道へ? 挑む未知の領域 その革新性とは?

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「グーグルグラス 開発者向け」
 グーグルグラスへの投資は、今後も継続されるのであろうか――。

 今年に入って、グーグルはグーグルグラスの開発方針について、二転三転する声明を出している。1月の声明では、グーグルグラスの開発を中止する旨を発表したが、3月の声明ではこれを覆し、投資を継続する意向を表明している。「勇気ある撤退」から一転して、「茨の道」へと逆戻りしたわけである。

 それではこの茨の道に、グーグルはどのようにして挑むのであろうか。エリック・シュミット会長は3月に出した声明の中で、グーグルグラスを「グーグルにとって重要で根本的なプラットフォームだ」と位置付けたうえで、「自動運転車と同じく長期的なプロジェクトで、開発には時間がかかる」と述べている。「長期的なプロジェクト」と捉える背景には、グーグルグラスがコンシューマユース向けに普及するのは短期的には難しいとの意向が見て取れる。それは、グーグルがグーグルグラスの技術革新を短期的に達成するのは難しいとみていることにも通じる。

 グーグルがグーグルグラスをビジネスユース向けではなく、コンシューマユース向けに開発していく方向性は決して、戦略的には間違ってはいないであろう。これまで、ウェアラブル市場では、機器の組み立てや医療用途を目的としたスマートグラスが数多く開発されているが、これらを利用するのは特定の企業に限られている。よって、こうしたビジネスユース向けのスマートグラスが開発できたとしても、普及が極めて限定的になる可能性は高い。グーグルが目指す市場は大きく、また、高い収益率が見込める市場でなくてはならない。

●ハードでの成功への挑戦


 だが、グーグルが採用するこうした市場の最大化戦略は、これまで検索サービスなどのネットビジネスやOSの標準化による水平分業のビジネスモデルでは成功してきたものの、独自ブランドで端末機器を開発して市場で販売するビジネスでは、成功するに至っていない。このことは、グーグルがこれまで製品化してきたネクサスワン(スマホ)やネクサスセブン(タブレット)などのケースが物語っている。グーグルには、アップルのように工業デザイン部門といった製品のデザインを専門に担当する部署が存在しないことも苦戦している要因のひとつであろう。

 それでは、グーグルはグーグルグラスの「革新性」をいかなる点に見いだそうとしているのであろうか。それは、グーグルグラスの動作環境を考えれば、おのずと見えてくる。グーグルグラスのディスプレイに表示される情報は、アプリアイコンを選んでから何かをするのではなく、行動や通知といったアイテムを直接選ぶ発想を取り入れているため、ヒトの行動に忠実な動作環境が整っている。

 では、そうした革新性により、グーグルグラスは大きな市場を獲得するほどの成功を手にすることができるのか。次稿では、グーグルがグーグルグラスで見いだそうとしているウェアラブル端末としての革新性と戦略性について、具体的に検証してみたい。
(文=雨宮寛二/世界平和研究所主任研究員)