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コートニー・バーネット『Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit』

このセンスは、一体何なのか? 怠け者風味の新人リリシストが見せたシュールでむきだしな歌詞世界

このセンスは、一体何なのか? 怠け者風味の新人リリシストが見せたシュールでむきだしな歌詞世界

テキスト:麦倉正樹 (2015/03/27)

オーストラリア発SSWが放つ、シュールでユーモラスな歌詞世界


吸い込まれるように透き通った青い瞳を持つ、オーストラリアはメルボルンの女性シンガーソングライター、コートニー・バーネット。先頃リリースされた彼女のファーストアルバム『SOMETIMES I SIT AND THINK, AND SOMETIMES I JUST SIT』が、ここ日本でも注目を集めているようだ。

「シンガーソングライター」と書いてみたものの、彼女が奏でる音楽は、基本的にはバンドサウンドである。しかも、Pavement(1990年代に活動したアメリカのオルタナティヴロックバンド)やベックなど、90年代のアメリカ――グランジからローファイへと至る流れを彷彿とさせる、スラッカー(怠け者)風味のインディーロック。それは、彼女が注目されるきっかけとなった楽曲“Avant Gardener”を聴いてみれば、すぐにでも分かることだろう。ドリーミーなサウンドに乗せて、どこか気だるそうに歌うコートニーの存在感が際立った、オルタナィヴなサウンドスケープを見てとることができる。




しかし、その魅力の中心は、彼女の独特な歌詞の世界観にあるようだ。「avan-garde」(アヴァンギャルド / 前衛芸術)と「gardener」(庭師)を合わせた造語である“Avant Gardener”と名づけられた先の楽曲。そこで綴られているのは、あたり一面へと広がる野菜畑を夢見てガーデニングを始めるも、突如パニック発作を起こして、救急車で病院に運ばれてしまうという、ややシュールなユーモアに包まれた、彼女の日常の(?)風景だ。しかもPVには、バンドメンバーとテニスに興じるコートニーの姿が延々と映し出され……このセンスは、一体何なのだろうか? そのユニークな表現は、ファーストアルバム『SOMETIMES I SIT AND THINK, AND SOMETIMES I JUST SIT』で、いよいよその全貌を露わにしているといっても過言ではないだろう。

コートニー・バーネット『Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit』ジャケット
コートニー・バーネット
『Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit』ジャケット


なにげない日常の風景を、スケッチコメディー風に仕立て直す独自の手腕


同作からのファーストシングルとなった“Pedestrian at Best”。ザクザクと荒ぶるギターのリフに乗せて、スポークンワーズ的とも言える長尺な言葉を鋭く並び立てるこの曲で彼女が歌うのは、不安定に揺れ動く自らのエモーションのやっかいさである。<あなたを愛してる / あなたを憎んでる / どっちつかずで全てはその時次第>。「歩行者がいちばん安全」という警句的なタイトルは、アクセルの踏み込み次第で暴走してしまう「車=恋」のアナロジーだろうか? しかし、その歌詞の意味をさらに押し広げ、それを「移り変わりの激しい人々の興味」に変換しながら、新人ピエロに人気を奪われる古株ピエロの悲哀の物語に書き変えてしまうところが、さらに彼女のユニークなところと言えるだろう(しかも、自ら古株ピエロを演じてしまうというアイロニー!)。




しかし、それとは打って変わって、弾き語りを基調とした繊細なメロディーが叙情的に響く“Despreston”。そこで彼女が描き出してみせるのは、メルボルン郊外の街、プレストン(Preston)にある一軒家を見に行ったときに感じた、どこか気が滅入る(Despress)ような思いだ。具体的に何がというわけではないけれど、仲介業者の軽やかな売り文句に感じた、そこはかとない違和感。そして、かつての家主に対する漠とした思い。決して、仰々しいメッセージや切実なエモーションがあるわけでないけれど、日常の中でふと感じた「真実」を、彼女は率直に――ときには、スケッチコメディーのようなエピソードとして、鮮やかに切り取ってゆくのだ。




一見、怠け者然としたリリシストの透徹したまなざし


そう考えると、この『SOMETIMES I SIT AND THINK, AND SOMETIMES I JUST SIT』という、いささか素っ気ないアルバムタイトルも、また別の意味合いを持ってくるように思う。「私はときどき座って考えて、ときにはただ座っている」。飾り気の無いスラッカー然とした佇まいを持ちながらも、その青い瞳はどこまで透徹したまなざしで、身の回りの「日常」を見つめているのだ。

コートニー・バーネット
コートニー・バーネット

同作において最もドープな奥行きを持ったサイケデリックソング“Kim's Caravan”の中で、彼女はこんなふうに歌っている。<私が何を言おうとしているかは聞かないで / 私はあなたが見たいものを映し出してるだけ / だから好きなように解釈して>。その楽曲的なバリエーションのふり幅はもとより、オーストラリアから突如現れた「稀代のリリシスト」として、今後さらに注目されるであろう新人の登場だ。

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このセンスは、一体何なのか? 怠け者風味の新人リリシストが見せたシュールでむきだしな歌詞世界

Courtney Barnett
『Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit』日本盤(CD)

2015年3月18日(水)発売
価格:2,268円(税込)
TRCP-182

1. Elevator Operator
2. Pedestrian at Best
3. An Illustration of Loneliness(Sleepless in NY)
4. Small Poppies
5. Depreston
6. Aqua Profunda!
7. Dead Fox
8. Nobody Really Cares if You Don't Go to the Party
9. Debbie Downer
10. Kim's Caravan
11. Boxing Day Blues
12. Avant Gardener(bonus track)
13. History Eraser(bonus track)

コートニー・バーネット

コートニー・バーネット

1988年、豪タスマニアで生まれ。アート学校卒業後にメルボルンに移住し音楽活動を続ける。2012年、自身のレーベルMilK! Recordsを設立し、デビューEP『I've got a friend called Emily Ferris』(2012)をリリース。続いてセカンドEP『How To Carve A Carrot Into A Rose』(2013)をリリースし、シングル「Avant Gardener」はピッチフォークでベスト・ニュー・トラックを獲得するなど彼女の音楽が世界中に瞬く間に広まっていった。2014年にはEP2枚を1枚にまとめた『The Double EP: A Sea of Split Peas』 リリース。デビューアルバムとなる『Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit』を2015年3月18日にリリース。

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