ねえ、格安SIMのこと、ひかりに教えてくれる?
春の香りが日に日に強くなってきた3月のある日、ひかりちゃんから連絡が来た。
「かずくん? あのね、ちょっと話したいことがあるの。いつものところで会えるかな……」
なんだろう? いつも元気いっぱいなひかりちゃんなのに、電話越しの声はちょっと沈んでいるように感じた。
僕は、いつも待ち合わせをする駅前の踏切でひかりちゃんを待った。待ち合わせ時間より2分遅れで、彼女はやってきた。
踏切の向こうから手を振っている。あいかわらずかわいいな。
「遅れてごめんね」
踏切を急ぎ足で渡り、ちょっとはにかんだような顔で僕に挨拶をする。
「ううん。僕もさっき来たところだから。で、話ってなに?」
「大したことじゃないんだけどね。ちょっと気になることがあって……」
彼女は笑顔で「行こ?」と言いながら歩き出した。僕も一緒に歩き出す。ほんとは、もっとリードしたいんだけど、どうしていいのかわからず彼女のペースに合わせてしまう。
“格安SIM”ってなに?
電話の声とは違い、元気そうだ。僕と肩を並べて歩いたり、ちょっと先を歩いたり。今日は曇だけど、僕らの周りだけ晴れているような錯覚に陥った。
彼女は歩きながらこちらを振り返って、手を差し出した。
「ほら、早く!」
僕は手を伸ばして、彼女の手を握った。そして、ゆっくりと歩く。彼女の手から伝わる温もりのなかに、少しだけ不安が感じ取れた。
「あのね、今日はかずくんに聞きたいことがあって」
「僕で答えられることなら、何でも聞いて」
僕は軽く手を握り返しながら答えた。心なしか、いつもより強く手を握っている気がする。
「あのね、“格安SIM”って何?」
僕は、予想外の質問に立ち止まった。え? 格安SIM?
「私、この前友だちに聞いたんだ。スマホにはSIMっていうのがあって、それを取り替えればスマホの料金が安くなるって」
彼女はまっすぐ前を見ながら、僕に尋ね、僕は思わず彼女とつないでいた手をほどいてしまった。
「そうだね。スマホには電話番号が登録されたSIMカードというものが入っているんだ。もちろん、ひかりちゃんが使っているスマホにも入っているよ。SIMカードがないと、スマホで電話やインターネットは使えないんだ。Wi-Fiが使える場合は別だけどね」
「ふーん、私、見たことがないや。なんで、手、離しちゃったの? 寂しいな」
「あ、ごめんごめん」
僕はそう言って、もう一回彼女の手を握った。ちょっと不機嫌そうな彼女を見ているのもいいかなと思ったけれど。
「なんか予想とは違う質問だったから。ま、SIMカードなんて普段はあまり見る機会はないかもね」
春が近いといっても、まだ肌寒い季節。彼女の頬が、寒さで少し赤くなっている。僕らはカフェに入ることにした。
スマホの基本料金を安くする魔法のSIMカード
「何飲む?」
「私、ロイヤルミルクティー」
彼女はコーヒーよりも紅茶派だ。
「じゃあ、僕ホットのカフェオレで」
カフェで向かい合わせに座る。彼女は笑顔で僕を見ていた。
「ねえ、SIMカードってどこに入ってるの?」
僕は自分のスマホを取り出して、SIMカードスロットを開けた。
「ほら、これがSIMカードだよ」
「こんなところに入ってるの? 全然知らなかった」
彼女は目を丸くして驚いた。
「普段見ることはないだろうね。スマホを契約するときに、電話番号がもらえるでしょ? その情報がこのカードに入ってるんだ」
「でも、普通は契約した会社のしか使えないんでしょ? これを交換するってどういうことなの?」
僕はカフェオレを一口飲んで、説明を始めた。
「最近は、携帯電話の会社から回線を借りて、インターネットとか通話のサービスを提供する“MVNO”という会社があるんだ」
「ふーん」
あまりピンと来てないらしい。彼女はロイヤルミルクティーに砂糖を2つ入れた。甘いものが好きなんだよね。
「ひかりちゃんは、スマホを買った会社と契約をしているよね。毎月どのくらい基本料金払ってる?」
「だいたい9,000円くらいかな」
「そう。実は僕、さっき話したMVNOを使ってるんだ。MVNOなら、自分の使い方によっていろいろなプランが選べるし、料金もすごい安くなるよ。僕は毎月4,000円くらいかな」
「それってすごく安いよね。いいなー、私もかずくんみたいに毎月のスマホの料金安くしたいなー」
甘えたような声を出して、彼女は僕を見つめた。僕は、ちょっと照れながら話を続ける。
「僕が使っている、NTTぷららの『定額無制限プラン 音声通話プラス』は、毎月3,460円※なんだ。それで、データ通信は無制限。通信速度は3Mbpsだけど、特に困ったことはないよ。それよりも、毎月のデータ制限がないから、いくらインターネットを使っても通信量の制限を気にする必要はないんだ。インターネット使い放題。動画をたくさん見たり、SNSをいっぱい使っても、通信量制限に引っかかることはないから思う存分楽しめるよ」
「わかる! 私、毎月月末になると、通信量制限に引っかかるんじゃないかって思って、あんまり使わないようにしてるもん。月末は動画見るの我慢してるよ」
そういうことを気にしている彼女もかわいい。いつもどんな動画を見ているんだろう。
「MVNOのSIMカードは、インターネットしか使えないタイプのものが多いんだ。音声通話はいらないって人はそれでもいいんだけどね。僕が使っているのは音声通話も使えるタイプ。通話料は30秒20円。もちろん、自分からかけなければ通話料はかからないよ。僕、自分から電話かけることがあまりないから、ほとんど着信専用って感じだね」
「最近は音声通話はそういうアプリとか使うから、あんまり使わないなー。でも、いざというときに電話が使えるのは安心だよね。もし私に何かあったとき、かずくんにすぐ連絡取れるもんね」
彼女はそう言って笑った。ひかりちゃんに連絡もらったら、すぐにかけつけるよ。
ドコモの端末かSIMフリー端末ならすぐに使える
「これって、私のスマホでも使えるのかな」
「MVNOはドコモの回線を使っていることが多いから、SIMカードもドコモのものと同じ規格の場合が多いんだ。ぷららもドコモの回線を使っているから、ドコモのスマホか、SIMロックフリーのスマホなら使えるよ」
「私ドコモだから、使えるね」
「あ、ひとつだけ気をつけなくちゃいけないことがあるんだけど。SIMカードには通常のサイズと、ちょっと小さいmicroSIM、もっと小さいnanoSIMっていう3種類のサイズがあるんだ。だから、ひかりちゃんがもしMVNOのSIMカードを使いたいっていうときは、サイズをよく確認してね」
「うん。わからなかったらかずくんに聞けばいいしね」
「まあね」
彼女に頼りにされているというのは、ちょっと照れくさくちょっとうれしい気分だ。
撮った写真をSNSにアップ、する?
僕らはカフェを出て、近くの公園にやってきた。まだ時間が早いのか、いつもいる小さな子どもたちがいなくて静かだ。
「ここがこんなに静かなの初めて見たー!」
そう言って彼女は公園のなかを走り出した。無邪気な子どもみたいだ。どうやら、会う前の沈んだ気持ちは解消されたらしい。それが僕のおかげなのか、MVNOのおかげなのか……。僕にはよくわからないや。
彼女はブランコに乗った。
「ほら、今ならブランコ乗り放題だよ! 早く早く!!」
僕はゆっくりとブランコに近づいて、彼女の隣に座った。ブラブラとブランコを漕ぐ。そのとき、スマホで写真を撮った。
「あー、今写真撮ったでしょ」
「せっかくだしね。かわいく撮れてるよ」
ひかりちゃんが、かわいく撮れてないことなんてないんだけど。
「じゃあ私も撮ってあげる!」
「え? 僕の? でも、それって別に必要ないんじゃないの?」
「私が欲しいの!」
「そ、それじゃあお願いしようかな」
僕はちょっと照れながら、彼女に写真を撮ってもらった。
「ねえねえ、私を撮った写真、送って」
「もちろん。どの写真にしようかな」
「あー、これあんまりかわいくない!」
「そんなことないよー。かわいいよ。こっちの写真はどう?」
「うーん、こっちのほうがいいかな」
「これ、ツイッターにあげちゃおうかなー」
「なんか恥ずかしいな……」
格安SIMにすれば、毎月のスマホの基本料金が安くなる。そうすれば、ひかりちゃんといろんなところに行ける余裕ができる。まさか、僕がそんな気持ちで格安SIMにしたなんて、彼女は思ってないだろうな。
二人で写真を選びながら、僕には言えない言葉があった。「二人で写真撮ろうよ」。
それは、もう少し二人が仲良くなってから。それまでは格安SIMを二人で使って、いろいろな話をしていければいいな。
source: ぷららモバイルLTE
special thanks: 滝口ひかり
(執筆:三浦一紀、撮影:古谷完)
※料金は税抜きです。