昔々、遠い西の国のお話です。広い広い野原に白いゾウが住んでいました。人間がまだ住んでいない場所で、白いゾウは心穏やかに毎日暮らしていました。
あるとき、野原に大勢の人間がやってきました。皆元気がなく、痩せ衰えています。白いゾウは人間たちに話しかけました。
「あなた方はどうしてこんなところにやってきたのですか」
「おお、哀れな私たちの話を聞いてください。私たちは遠い国で王様からおしかりを受けて、この野原に追放されました。ここは大勢の人が生きていけるだけの食べ物も水もなく、ここまで半分以上の人たちが力尽きました。私たちももうじき力尽きるでしょう」
白いゾウはなんとかこの人たちを助けたいと思いました。そこでこんなことを言いました。
「あちらの方向に歩いていくと、オアシスがあります。そこで水を手に入れることができます。そして更に奥に行くと、誤って崖から落ちて死んだばかりのゾウの死骸があります。その肉を食料にしなさい。ゾウの胃袋は水を入れる袋にもなります」
「でも、あなたのお仲間を食べてよいのですか」
「あなた方が助かるためには仕方のないことです。それからこの野原を越えれば、まだ誰も住んでいない豊かな土地があります。そこで暮らすと良いでしょう」
「ありがとうございます」
人々は白いゾウにお礼を言い、白いゾウの教えたオアシスの方へ歩いていきました。白いゾウは人々を見送ると、崖の上のほうへ向かって歩いていきました。崖はとても高く、落ちたらひとたまりもありません。底を覗くと目がくらみましたが、白いゾウがためらうことはありませんでした。
オアシスで喉を潤した人々が白いゾウに教えられた場所へ行くと、確かにそこには死んだばかりのゾウの死骸がありました。
「これは、さっきの白いゾウと全く同じじゃないか」
誰かが叫びました。それから、人々は白いゾウがとても尊い行動をしたのだと悟りました。
「我々のために死んだ、このゾウの肉を食べることなどできない」
そんな声が聞こえてきました。
「いや、我々のために命を投げ出したこのゾウの厚意を無駄にはできない」
人々は白いゾウの肉を食べ、胃袋に水を入れて更に野原を進み、ついに豊かな土地にたどり着くことが出来ました。
人々はそこで国を作り、国の守り神として白いゾウの像を作ってお祀りしました。それからこの野原を「白いゾウの原」と呼ぶようになったと言うことです。
おしまい。
※この話は記憶を元に書き起こしたものです。昔の童話集か何かに入っていた話で、仏典童話っぽいけど検索してもこれしか出てこない。詳細がわかる方がいれば聞いてみたいです。