言葉にならないものを言葉にするために

村上さん、こんにちは。わたしは、東日本大震災のとき、記者として仕事をしていました。そのとき、伝えること
しかできない自分に、今まで感じたことのない無力感を抱きました。村上さんは、無力感を抱いたことはありますか? 
(ポンポコたぬき、女性、28歳、会社員)

サリンガス事件を取材して『アンダーグラウンド』を書いたときに、同じような無力感を抱きました。そしてそれはある意味、今でもまだ続いています。いろんな人の死が、自分の身体に絡みついているような感触です。うまく言葉にはならない。でも言葉にはならないものを言葉にしていくのが、僕らの仕事です。それを違うかたちに、違う文脈に変えて敷衍していくこと。僕の場合はそれが小説になります。

村上春樹拝