シンガポール建国の父リー・クワンユーの、人類史上最大ともいえる偉業

2015年03月23日(月) 田村 耕太郎

人類史上最高のリーダー

シンガポールの初代首相リー・クワンユーさんの容体が悪化し、集中治療室に一族が集まっているという。最期の時が近いともいわれている。なんとかもう一度復活してほしい。

グリーンやブルーの派手なジャケットを着た私との再会をいつも喜んでくれたリー・クワンユーさん。「移民を受け入れないと日本は衰退するばかりだ」、「賢い日本人は問題がわかっているのになぜ誰も行動を起こさないのか?」と何度も辛辣だが温かいご意見をいただいた。常に未来を予測し、そこから逆算してシンガポールの政策をつくり続けてきた本物のビジョナリーであり、現存する為政者のなかでも心から尊敬できる人物だ。世界はまだ彼を失ってはいけないと思う。今はただただ祈るしかない。

人類史における最大の偉業の一つは間違いなくシンガポールの建国だと思う。優秀な人間を集めて組織をつくったアップルやグーグルの起業も偉業の一つだが、そこにいる人たちで国家をつくり、ありえないほどの結果を出したことは称賛に値する。民主主義原理主義者のような欧米メディアがしつこくシンガポールの統治システムを批判するが、政治とは「結果」である。ここで言う結果とは、国民の生命・財産・誇り・幸せを守り育てることである。その点においてリー・クワンユーさん以外で、清廉な形で、これだけの実績を残した人がどれだけいただろうか?

インドや中国をはじめとする植民地を略奪して豊かになった欧州列強とは違う。「資源も何もない小国」という枕詞を日本の政治家は使いたがるが、それはシンガポールに対して失礼である。本当に何もなく、近代国家が発展しないといわれた赤道直下にあり、しかも中国系、インド系、マレー系という多様な人種を抱えながら、今やアジアナンバーワンの豊かさと安全な社会と清廉な政府を誇る。比較的従順で働き者な国民によって豊かになった日本とは次元が違う。

娘や孫が政治経済に関心を持つ年頃になったら、私がリー・クワンユーさんと少しばかり交流させてもらってきたことを自慢したい。そして、人類史上最高のリーダーであるリーさんの器の大きさを伝えたい。娘や孫には、リーさんにあこがれを抱くようになってほしい。




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田村 耕太郎

(たむら・こうたろう) 前参議院議員。エール大学上席研究員、ハーバード大学研究員などを経て、世界で最も多くのノーベル賞受賞者を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で唯一の日本人研究員を務めた。
国立シンガポール大学公共政策大学院名誉顧問、新日本海新聞社取締役東京支社長。
1963年生まれ。早稲田大学卒業、慶応義塾大学大学院修了(MBA取得)。デューク大学ロースクール修了(法学修士)、エール大学大学院修了(経済学修士)、オックスフォード大学上級管理者養成プログラム修了、ハーバード大学ケネディスクール危機管理プログラム修了、スタンフォード大学ビジネススクールEコマースプログラム修了、東京大学EMP修了。
2002年から10年まで参議院議員を務めた間、内閣府大臣政務官(経済財政、金融、再チャレンジ担当)、参議院国土交通委員長などを歴任。
シンガポールの国父リー・クアンユー氏との親交を始め、欧米やインドの政治家、富豪、グローバル企業経営者たちに幅広い人脈を持つ。世界の政治、金融、研究の第一線で戦い続けてきた数少ない日本人の一人。
2014年8月、シンガポールにアジアの地政学リスクを分析するシンクタンク「日本戦略情報機構(JII)」を設立。また、国立シンガポール大学(NUS)リー・クワンユー公共政策大学院の兼任教授に就任し、日本の政府関係者やビジネスリーダーに向けたアジア地政学研修を同校教授陣とともに実施する。
著書に『君に、世界との戦い方を教えよう 「グローバルの覇者をめざす教育」の最前線から』などがある。