出版社として、客として、沖縄で思う「町の本屋さん」のこと(下)

2015年3月17日 13:36
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  • 喜納 えりか(きな えりか)
  • ボーダーインク編集者

1975年具志川市(現うるま市)生まれ。琉球大学でマスコミ学、沖縄戦後史、社会福祉学などを学ぶ。卒業後、2002年から沖縄の出版社ボー ダーインクで編集者として勤務。最近の趣味は楽器演奏と読書会。

有線電話

金武文化堂の新嶋正規店長。『本屋会議』(夏葉社刊)は金武文化堂でも販売中

子供たちを見守る本屋として

 金武の子供たちは(元・子供たちも)、金武文化堂のことを「きんぶん」と呼ぶ。中北部のなかでも、基地の街のイメージがとりわけ強い金武町。キャンプ・ハンセンや訓練場などが町面積の約6割を占めているが、基地周辺にある繁華街を外れれば、水量の豊かなカー(井泉<せいせん>)とその恩恵を受けた水田が広がっていて、鍾乳洞もあり、自然の美しさのほうが印象に残る。

 そういえば、沖縄唯一の「有線電話」という町内だけで使える電話もある。各家庭に4ケタの番号が割り振られており、電話帳まであって、ご近所の用事はそれで済ませることができる。正確には「有線放送電話」と言うらしく、名前のとおり電話のスピーカーからは町内放送がのんびりした様子で流れてくる(ちなみに月額700円で通話し放題だとか)。

 「きんぶん」には、放課後になると子供たちがコミックスや駄菓子を買いにくる。何も買わないときもあるし、雨が降っていれば雨宿りにやってくる。入り口の有線電話でおばあちゃんに電話をかけ、店内でお菓子を食べながら迎えを待つ。学校には持って行けないからと、登校のときにお金を預けていき、下校時に受け取ってお菓子を買って帰る子もいる。

 本屋には、いつも店員さんがいる。迎えのおばあちゃんも安心して孫を待たせているだろうし、お金を預ける子供たちも、きっとそうだ。子供たちが、お金があっても無くても立ち寄って長居できる場所は、図書館やか本屋ぐらいかもしれない。

 金武文化堂の新嶋正規店長は、店のこれからについて構想を変えた。大人向けに限ったカフェというだけではなく、子どもも楽しめ、そのことで大人も楽しくなるような店を目指すことにしたという。

 「そもそも、食っていくためなら、もっと楽な商売がある。だけど、子供を大切にしないと意味がない。そのことに気づきました」

 わたしは少し驚いた。本屋を続けていて、それが結果的に子供たちを見守ることになった。

 そういうことはあるのかもしれないが、見守ることそのものが本屋をやる目的とは。

 だから店を続けていくために何かをしないといけない。地元密着で泥臭く。

 「結局、元に戻ったんです。また試行錯誤しないといけない」と新嶋さんは笑った。

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