高齢化が進むJリーグファン 2ステージ制は起爆剤となるか
2015年シーズンが開幕したJリーグに、ちょっと気になるニュースが飛び込んできた。Jリーグが毎年実施している「スタジアム観戦者調査」の2014年シーズン版がこのほど発表され、スタジアム来訪者の平均年齢が40.4歳に達したことが明らかになったからだ。
2013年シーズンの平均年齢は39.5歳で、40歳を越えたのは調査が始まった2004年シーズン以来でもちろん初めてのことだ。2004年シーズンの34.1歳から少しずつ上昇してきた平均年齢が、ここにきて一気に0.9歳もはね上がった事実が意味するものは明白だ。
つまり、Jリーグがターゲットとして据えてきた「若い層のファンの新規開拓」がなかなか進んでいない現実が浮き彫りとなったわけだ。スタジアムへ足を運ぶファンの顔ぶれがほとんど変わらないまま、全体としてひとつ年を重ねたことになる。実際、Jリーグの試合を初めて観戦した人が占める割合は、前年比0.5%減の8.0%にとどまっている。
そのうち女性が占める割合が、2013年シーズンの46.3%から53.4%へと大きく跳ね上がっている。これは日本代表FW柿谷曜一朗、アンダーカテゴリーの各日本代表に名前を連ねるFW南野拓実をはじめとする有望若手選手を数多く擁し、「セレ女」と命名された女性ファンを新たに開拓したセレッソ大阪に負う部分が多いと言っていい。
そのセレッソもJ1への残留がかなわず、柿谷は昨シーズン途中にスイスの名門バーゼルへ、南野もこのオフにオーストリアの強豪ザルツブルクへ移籍した。8日にはJ2が開幕するが、昨シーズンまでのブームが一過性で終わってしまうことも残念ながら否定できない。
あくまでも仮定の話になるが、事態が現状のまま推移していけば、スタジアム来訪者の平均年齢も自動的に上がり続けていくことになる。いわゆる「先細り」の状態になりかねないわけで、当然ながらJリーグにとっては死活問題となってくる。
陥りかけている「負のスパイラル」に歯止めをかけて、未来へ向けて反転させていく目的を込めて、Jリーグは7日から幕を開ける今シーズンのJ1で2ステージ制を復活させる。
ホーム・アンド・アウェー方式による2回戦総当たりのリーグ戦を長丁場で行い、最も安定した力を発揮し続けたチームにチャンピオンの称号を与えられる。こうしたリーグ戦の本質を理解した上で、あえて世界の流れに逆らう方式を再び取り入れた意図は明白だ。
優勝争いのヤマ場を複数作ることでメディアへの露出を増やし、従来のファンやサポーターだけではなく、ライト層と呼ばれる新たなファン層の関心を呼び起こしてスタジアムへ足を運ばせる――。具体的にはファースト、セカンドの両ステージの優勝争いと、年間チャンピオンを決めるポストシーズンマッチで盛り上がりを作る。昨シーズンまでのリーグ戦と比べて、単純計算で3倍の盛り上がりが望めることになる。
1993年シーズンに産声をあげたJリーグは2ステージ制を採用し、90分間を終えて決着がつかない場合は延長戦とPK戦も実施して勝敗をつけた。サッカー文化が根づいていない当時の状況を鑑みて、日本サッカー界独自の開催方式でライト層をスタジアムへ呼び込むことが目的だった。
そうした役目も終わったと判断された結果として、2005年シーズンからヨーロッパをはじめとする海外に倣って1シーズン制が導入された経緯がある。横浜マリノス(現横浜F・マリノス)の主軸として黎明期のJリーグで2ステージ制を経験している解説者の水沼貴史氏は、「チーム数を含めて、私たちがプレーした頃とはまた違った楽しみ方がある」と今シーズンのJ1の展開をこう予測する。
「たとえば今年のファーストステージは6月末までの4ヵ月弱の短期決戦になるので、大混戦のまま終盤戦に突入する展開も十分に考えられる。勝ち点3を獲得するためによりリスクをかけるチームや、しっかりと守ってカウンターで応戦してくるチームが増えてくると考えられる。要はシーズンのかなり早い段階からオープンな展開の試合が多くなる可能性があるわけで、ゴール前の攻防が多くなるので見る側にとっては面白く感じられるかもしれない。サッカーの質が問われるのはもちろんだけれども、オープンな展開になってくればそこに引きつけられるファンが出てくると思うし、絶対に勝ち点3を奪うんだという選手たちの気概もピッチから伝わってくる。攻め合いのような展開が増えれば面白いし、そうなれば2ステージ制にした価値が出てくるかもしれない」
歴史を振り返れば、2ステージ制では開幕前の下馬評を大きく覆すチームが現れている。
1993年シーズンのファーストステージは鹿島アントラーズが、1994年シーズンのファーストステージはサンフレッチェ広島がそれぞれ優勝している。本命にあげられていたヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)はシーズン半ばから調子をあげて、セカンドステージとチャンピオンシップを制して連覇を達成した。シーズンのファイナルで実現した「本命対大穴」の構図が、ファンの関心をより一層高めた。
2013年シーズンが2ステージ制で行われていたと仮定すれば、ファーストステージは最終的に年間の総合勝ち点1位となるサンフレッチェ、セカンドステージは大穴的存在のアルビレックス新潟が優勝したことになる。この2チームと年間勝ち点2位のマリノス、同3位の川崎フロンターレがポストシーズンに進出して、年間チャンピオンの座を争う図式となる。
2013年シーズンのアルビレックスは夏場以降で無類の強さを発揮し、ホームで9連勝、最後は5連勝でフィニッシュしている。前出の水沼氏は「短期決戦ではすべてのチームに可能性があるといっていい」とこう続ける。
「勢いを出すには、縦に速く仕掛けるのも有効な手段となる。アルビレックスもそうだし、サガン鳥栖やベガルタ仙台、今シーズンの昇格チームである湘南ベルマーレ、松本山雅、モンテディオ山形もすべて同じようなタイプのチーム。戦い方がはまったときには相当な強さを発揮すると思うし、そういうチームに対してポゼッションでいなし続けていくチームが王者のガンバ大阪であり、フロンターレであり、ある意味では浦和レッズもそうだと思う。見ている側はわかりづらさを感じるかもしれないけど、いまから頭であれこれ考えるよりも、ファンの方々により楽しいサッカーを提供しようという試みだと受け止めてほしい。もちろんリーグ側はメディアなどを介して開催方式を上手く説明していく必要があるし、何よりも選手たちは昨シーズンまでと変わることなく、ピッチの上で全力プレーを見せなければいけない」
冒頭で記した「スタジアム観戦者調査」はさまざまなデータを網羅していて、スタジアム来場者の平均年齢もクラブごとに算出されている。全体の平均である40.4歳に対してたとえばアルビレックスが45.4歳、大宮アルディージャが43.7歳、清水エスパルスが43.6歳を数えるなど、地方都市になるほど高齢化が顕著になっている。これはJ2にも当てはまることだ。
もっとも、こうした数字を悲観的にとらえすぎる必要もないのではないだろうか。
モンテディオの取材で、クラブハウスのある山形県天童市を訪ねた今年2月のこと。クラブの悲願だったJ1昇格を果たした2009年シーズンと、4シーズンぶりにJ1へ復帰する今シーズンとの違いに関して、クラブ関係者からこんな話を聞いた。
「2009年シーズンはサポーターの方々も何となく新参者のような感じで、対戦チームを見にくるような雰囲気もありましたけど、いまは腰を据えてモンテディオを応援していただいていると感じますよね」
たとえばレッズをホームに迎えたときには、近隣地域からの来場者が殺到して周辺のホテルがすべて満杯になったことがある。2011年シーズン限りでJ2へ降格したが、ホームタウンの熱は冷めるどころか「一緒にJ1へ上がろうというムードが生まれた」とクラブ関係者は続けた。
「年配のサポーターがものすごく増えましたよね。JFLからJ2に昇格した頃ではまったく考えられないことですし、年配のサポーターが子どもさんやお孫さんを連れてスタジアムに来るんですよ」
ここまで取り上げてきたスタジアム来場者の平均年齢は、原則として11歳以上の来場者を対象として算出されている。その一方で、試験的に11歳未満の子どもを含めたすべての来場者を対象とした場合には、平均年齢は一気に34.1歳にまで下がっている。
核家族化や少子化が比較的進んでいない地方は、山形を含めてそうした傾向が特に強いと言ってもいい。もちろんクラブがその地域にしっかりと根差し、ホームタウンに住む人々にとって必要不可欠な存在となっていることが大前提となる。モンテディオのケースは県民気質を象徴するように苦難を耐えて忍び、粘り強く食い下がるスタイルを追い求めてきた軌跡がサポーターの機微にも触れたわけだ。
もっとも、年配のサポーターに連れられてきた子どもたちが目の前で繰り広げられた攻防を面白いと感じなければ、おそらくリピーターにはならない。2ステージ制の盛り上がりを見て、仲間同士で「一度くらい行ってみようか」とスタジアムを訪れる大都市圏のライト層にとっても、同じ図式が当てはまる。
今シーズンからのJ1 開催方式の変更はあくまでも手段のひとつ。どんなときでもピッチの上で全身全霊のプレーを貫く。あるいは、ホームタウンの人々とともに歩んでいく姿勢を忘れない。こうした大前提を実践せずして、Jリーグの未来を論じることもまたできない。
(文責・藤江直人/スポーツライター)