次期米大統領選の民主党有力候補とされるヒラリー・クリントン氏が、国務長官在任中の公務に私的な電子メールアカウントを使っていたことが明るみに出た。共和党や政府の透明性を求める専門家らから疑問の声が上がり、波紋が広がっている。

 国務省は2日、クリントン氏が国務長官在任中(2009-13年)に政府のメールアカウントを持たず、私的なアカウントを使っていたと述べた。国務省の要請を受けて5万5000ページ分の電子メールを昨年末に提出したという。

 クリントン氏が私的メールを使っていたことで、国務省が同氏の公的なメール交信全体にアクセスしたりを保持したりするのが可能だったのかという疑問が浮上している。ただ、同氏は当時の法規の枠内で行動していたように見える。

 2012年9月にリビアのベンガジで起きた米領事館襲撃事件を調査している下院ベンガジ特別委員会のトレイ・ガウディ委員長(共和、サウスカロライナ州)は3日の記者会見で、クリントン氏の電子メール問題に当惑していると述べた。

 ガウディ委員長は「国務省のリーダーとして、(クリントン)前長官は政府機関の記録保存にあたり規範を示す責任があった」と述べ、「前長官が法律に基づいてすべきことをしていたのならば、なぜ国務省は電子メールを提出するよう要請しなければならなかったのか」と疑問を呈した。

 ベンガジ特別委員会は、クリストファー・スティーブンズ駐リビア大使を含む米国人4人が殺害されたテロ事件を調査する一環として、クリントン氏の電子メールを求めてきた。

 国務省によると、同省は歴代の国務長官に対し、電子メールなど文書類を所有していたら提出するよう要請した。これに応じてクリントン氏の事務所は電子メール5万5000ページ分を引き渡したという。

 同省によれば、クリントン氏の電子メールのうち約300ページ分が同省の点検のあと下院ベンガジ委員会に提出された。

ヒラリー・クリントン前米国務長官 Getty Images

 クリントン事務所の広報担当者ニック・メリル氏は「規則の条文と精神に基づき、適切な記録が温存されている限り、国務省当局者は非政府電子メールを使うことが認められていた」と述べた。

 米科学者連盟(FAS)の「政府秘密に関するプロジェクト」のディレクター、スティーブン・アフターウッド氏は、この問題は重要だとしたうえで、私的な電子メールの記録が政府の手になければ、情報公開法の対象から外れてしまい、議会の監視も受けなくなると述べた。

 ドリンカー・ビドル・アンド・リース法律事務所の弁護士で米国立公文書館の訴訟担当ディレクターを13年間務めたジェイソン・バロン氏の見解によると、クリントン氏は私的な電子メールのみに依存し、しかも記録保存のための政府機関にメールを提出するのにこれほど長い時間かかったという2つの点で、規則を拡大解釈したと言えるという。

 バロン氏は「公務遂行のため私的な電子メールアカウントを利用すること自体は非合法ではない」としながらも、「極めて異例なのは、公職にある間ずっとGmailのような私的なアカウントだけを用いている点だ」と述べた。

 2014年の連邦法では、公務のための私的な電子メール使用は、公式の政府アカウントにメールをコピーするか転送しない限り、禁止されている。こうした規則や指針は、クリントン氏の国務長官在任中にはなかった。しかし、2009年に施行された指針は、連邦機関が非公式アカウントで公務を遂行するのを職員に認める場合、確実に記録を保存しなければならないという内容だった。

 国務省がクリントン氏に対して私的なメールを提出するよう要請したのは昨年10月で、遅まきながら09年の指針を順守するためだったようだ。クリントン氏はメールを12月に提出した。

 クリントン氏のメール問題は、ニューヨーク・タイムズが最初に報じた。

関連記事