眠らぬご意見番、ギリシャ化懸念日本に喝-危機分析BNP中空氏 (1)
2015/03/04 11:09 JST
(ブルームバーグ):BNPパリバの投資調査本部長、中空麻奈氏は朝が早く、夜は遅い。朝5時に起きて7時に出社。かつては始発を使い6時に出社しており、「上司が朝早いとみんな迷惑する」と人事部に諭され、1年前から遅らせた。帰宅は午前0時ごろが多く、睡眠は平均3~4時間。2人の子供の母は「世のお父さんと同じです」と笑う。
信用アナリストの先駆者として不良債権問題やリーマンショックなど「危機の時代」に実績を上げ、昨年3月には新たな職務が加わった。財政制度等審議会委員として日本の財政悪化に警告を発する仕事だ。財政難のギリシャは2月、ユーロ圏諸国からの4カ月の支援延長で資金繰りの危機を辛うじて回避したばかり。日本も消費再増税の延期や歳出削減の遅れで、財政危機は「このまま行けば時間の問題」と訴える。
日本の公的債務残高 は名目国内総生産 (GDP)の約2倍の1030兆円。政府は2020年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化を目指すが、名目GDPで3%台後半の高成長が実現しても、20年度に9.4兆円の赤字になると、内閣府は試算している。
同じ財政審委員である慶応大学教授の土居丈朗氏は、中空氏について、マーケットサイドの視点で意見を出し、「手ぬるい歳出削減だと誤ったメッセージをマーケットに出してしまう、と非常に厳しく懸念を示していた。財政当局も身が引き締まる思いのはずだ」と指摘する。その面目躍如は昨年11月14日の財政審財政制度分科会の会合だった。
対岸の火事読売新聞の報道を機に「消費増税先送り、年内解散総選挙」の機運が高まる中、中空氏はその日の会合を迎えた。増税には「今より良い時はない」と思っていた矢先の先送りの動き。「主張するべきは主張しなければ」と強い気持ちで臨んだという。議題の15年度予算編成に関する建議(意見)案には、ギリシャ危機に触れた文言があった。
議事録によると中空氏は「ギリシャと違い日本は安心だと読めなくもない」と指摘。「国債価格 下落によって金融機関だけが影響を受けるのではなく、国民にも跳ね返り、大変なことと言うべきだ」と主張した。他の委員も同調し「財政運営の信認が失われることになれば短期間に国債金利が急騰、財政危機と金融危機が同時発生しかねない」「国民生活は多大な影響を被る」と、日本への教訓が建議に書き加えられた。
当時を振り返り、「ギリシャというと日本人は対岸の火事と見ているが、どの国よりも借金が多い私たちは無視していいはずがない」と話す。ギリシャと違い日本は国債が国内消化されるが、「人口が減っていくので、お金を回していくため、海外勢にも保有してもらう時が来る」とし、リスクに敏感な海外勢に売られることも想定されるという。
エネルギッシュ小柄な身体で1日中精力的に動き回り、同僚たちには体力のある人と評される。睡眠3~4時間でも「仕事がたて込んでいて眠くなることはない」と話す中空氏。午前9時前にブルームバーグの取材を受けた2月25日も顧客来訪に続き、財政審用とインド出張用の資料2種類を作成、別の取材案件、顧客訪問で外出、電話会議と予定がびっしり。
夜は顧客との会食だ。数字と理論が支配するように見えるクレジットの世界だが、「企業が何を悩んでいるのかとか、経営者のやる気を知るために人との接触を一番大事にしている」という。
金融マンの夫との間に2人の男の子がいる。子育ては近所に住む母親に任せてきた。「子供たちは今ではそういう特殊な親ということで受け止めてくれている」と苦笑する。
安倍政権が進める女性の活躍推進策には首をかしげる。米国などと違い日本では自身のように四六時中働きたい女性よりも、家庭生活を優先したい女性が多数派だとし、これは「社会が植えつけた因習」とみる。意識が変わらない限り「ウーマノミクスと言っても、進まない」。
予想的中が醍醐味91年に野村総合研究所に入社。信用アナリストとして歩み始めたのは、野村アセットマネジメント時代の97年だ。一定の財務条件を満たした企業だけに社債発行を認める適債基準が96年に廃止され、日本の社債市場は投資家保護から、自己責任に基づくリスクテイクの時代に転換しつつあった。企業の信用力分析が重要となり、「バイサイドとしては日本初のクレジットアナリスト」と自任する。
97年はヤオハンジャパンの転換社債(CB)が戦後初の債務不履行を起こし、不良債権を抱えた銀行・証券が経営破綻した年でもある。草創期の信用アナリストたちは脚光を浴び、「すごく刺激的だった」と振り返る。その後も国内では00年前後の不良債権処理問題、07年以降は米国を発端とする世界金融危機が発生。多くの国で金融機関や企業、財政の信用劣化が進み、「危機のことばかり書いてきた」という。
「仕事の醍醐味は予想を的中させること」と話す中空氏。野村を皮切りにモルガンスタンレー、JPモルガンを経て08年にBNPパリバに移籍する中で、頭角を表わしてきた。08年の破綻以前から「リーマンは良くない」と投資家に具申、後で感謝されたほか、11年の原発事故直後に東京電力の信用力回復予想を的中。10年から3年連続で「日経ヴェリタス」のランキングでクレジットアナリスト部門第1位に輝いた。
中でも名声を高めた業績として、メリルリンチ証券の上田祐介チーフクレジットアナリストは、世界金融危機後の「欧州の金融機関に関するリポート」を挙げる。現在の中空氏の仕事ぶりについても「バランスよく何でもやっており、すごい人」と評価する。
クレジットバブル国債といい、社債といい、金利が極端に低下しているのは過剰流動性が背景にある。中空氏は本業の社債市場について、日本銀行の異次元金融緩和で信用スプレッドは一段とタイト化が進み、「クレジットバブルが続いていく」と見ている。
日米両中銀の出口戦略や各地の紛争・戦争、ギリシャ危機など様々なリスクが潜んでいるのに、日本の市場は「リスクをリスクと見ない習慣がついてしまい、相場調整ができていない」という。何かがきっかけになって「リスクオフのモードに急速に切り替わるのでは」と、バブル崩壊に警鐘を鳴らしている。
ブルームバーグ・データによると、日本の社債の対国債スプレッドは3日時点で平均22ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と、安倍政権発足時の46bpの半分以下。
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更新日時: 2015/03/04 11:09 JST