「素速く小さな失敗を積み重ねて70点を1,000回とり、スコア70,000点でアガるべし」と言われるスタートアップですが、スタートアップが犯してはいけない致命的な失敗が3つほどあります。

1つは「いつまでもプロダクトの出来が悪い」こと。次に「資金の使い途を誤り続ける」こと。もう1つは「顧客から必要とされない」ことです。

これらの失敗は、他の失敗に比べて致命的なダメージを受けやすく、時としてスタートアップの死に至る失敗です。ダメージが軽いうちにリカバリすることがなによりも重要です。

#1. いつまでもプロダクトの出来が悪い

ハマりやすさ:★★☆☆☆
時期:シード期後半

まず、なによりもスピーディーに最初のプロダクトリリースにこぎつけること。
これは次の言葉のとおりです。

“Done is better than perfect” (完璧な製品を作るよりも早く仕上げろ)
ー Mark Zuckerberg / CEO of Facebook, Inc.

ウィンクルボス兄弟よりも先にハーバード大学の学生向けにThe Facebookをリリースしたザッカーバーグの言葉だけに深いです。

それはさておき、問題はその後です。

シード期の後半、最初のリリースが低品質でも、たゆまずプロダクト開発を続け、そこから急激に品質を向上させていけば、この失敗とは無縁です。しかし、この時期は顧客獲得のためにマーケティングやブランディングにも集中する必要があり、また協業の引き合いも増え、チームは多忙を極めます。場合によっては、次のラウンドの資金調達のために駆け回り、ほぼ連日徹夜です。そのため、品質向上にかけるリソースを無意識のうちに軽くしてしまい、いつまでもプロダクトが低品質のまま、顧客の新規獲得がほぼそのまま離反という焼き畑モードに陥ります。いわゆる死の谷です。

もし今あなたがいるチームのプロダクトについて、内外の数人から「出来が悪い」とフィードバックを受け取るようであれば、プロダクトチームとエンジニアチームのテコ入れをすることで改善が可能であり、この失敗によるスタートアップの致死は回避可能です。

マネジメントの側面から言えば、CTOとCPOが激流のシード期後半に、CEOとセールスチーム/マーケティングチームに押されることなく、しっかりと仕事をしていればOKです。

しかし、CEO兼CTO兼CPOやセールス兼マーケティングなど、一人複数役というケースの方がスタートアップのチームでは一般的です。兼務されている方は、シード期後半ではプロダクトの品質向上をよほど強烈に意識していないと、確実にこの失敗に陥ります。この失敗によるスタートアップ致死率が高いのはこの一人複数役が大きな要因となっています。一人複数役をこなしているスタートアップは要注意です。

#2. 資金の使い途を誤り続ける

ハマりやすさ:★★★★☆
時期:常時

「経営者の仕事は意思決定。スタートアップ経営も例外ではない」と言いますが、*資金の使い方を意思決定する*のが経営者にとっての最も重要な意思決定と言っても過言ではありません。スタートアップにとっての死とは、会社の精算です。会社はお金で動きます。資金の使い途を誤って、手元の資金が尽きてしまい調達の目処が立たなくなったら、そこで終了です。

スケール可能なビジネスモデルを掘り当てる前に大規模なチーム増員などの過剰な事業投資により、資金難へと陥ってしまい、あえなく終了といったケースが多くあります。経験の浅いボードメンバーで構成されたスタートアップがこの失敗に陥りがちです。

事業投資対象の選定、事業投資のタイミング・順序の見極めなど、経営が初めてのボードメンバーが最初から全部うまくできることはまずありません。シードラウンドの投資家や先輩起業家などのメンターから適切な事業投資を学び、実践しながら習得する必要があります。もちろん、その後も経営生命の続く限り、センスを磨き続ける必要があります。また、違うタイプとして、潤沢な手元資金があるにも関わらず使い途が分からないため、ゆるやかに死んでいくスタートアップもあります。

amazonは10年以上に渡って売上をパワフルに成長させながら、その利益のほとんどを事業投資に回しており、決算では赤字を記録し続けています。それぞれ意見はありますが、amazonのCEOジェフ・ベゾスは*赤字にできる才能*を評価され、事業投資の天才と称されています。

#3. 顧客から必要とされない

ハマりやすさ:★★★★★
時期:シード期からアーリー期

スタートアップ設立当初、スタートアップが提供するサービス/プロダクトは、ファウンダーたちの仮説からプロダクトアウトで世に出ていきます。ですが、その「仮説」とは所詮「手元の限られた情報を元にした思い込み」に過ぎません。この単なる「思い込み」を過信し、サービス/プロダクトの検証、適合改良をしないまま突き進むと、誰からも支持されないものを押し売りし続けることになります。当然、チームは疲弊し資金は底をつきます。いわゆるダーウィンの海です。

この失敗の恐ろしいところは、実行力の優れたチームである場合、事業投資が爆速で進むため「爆速で崖まっしぐら」ということです。

バークシャー・ハザウェイのウォーレン・バフェットがマイクロソフトのビル・ゲイツに贈った書籍「人と企業はどこで間違えるのか?/ジョン・ブルックス」にも、顧客から必要とされない商品・サービスを全力で作り、経営に大打撃を受けてしまった大企業の詳細な事例が紹介されています。

この失敗を回避するには、自分たちの仮説が思い込みに過ぎないことをチームが予め勇気を持って認識しておき、サービス/プロダクトの検証、適合改良を反復できるチーム(特にプロダクトとエンジニア)に生まれ変わらせ、「再現性がありスケーラブルな顧客ニーズ」を発見するまでは、事業スケールのための大規模な事業投資は控え、「再現性がありスケーラブルな顧客ニーズ」の発見にレーザーフォーカスすることが必要です。

スタートアップの自己認識

スタートアップとは、

– *いまだ発見されていない再現性がありスケーラブルな顧客ニーズ*を仮説(最初は思い込みに過ぎない)だて、
– サービス/プロダクトを高速イテレーションして検証・適合改良し、
– 新しいビジネスモデルで新しいマーケットを生み出す(もしくは、書き換える)

ことに特化した*一時的な組織*。

というのが、スタートアップの直近の定義です。この定義は時代とともに変わりますが、正確な自己認識を持ち、仕事を捗らせるのはとても重要だと考えています。

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