栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet プライマリケアでの多併存疾患患者へのアプローチ/小児のよだれレビュー/主要アウトカムをどれだけ報告しているか/関節リウマチの運動プログラム/中国のSTEMIの治療成績 コホート研究

BMJ

プライマリケアでの多併存疾患患者へのアプローチ 
Managing patients with multimorbidity in primary care*1

 今週はBMJのreviewから。まあ、そんなにすごく目新しいことではないかもしれませんが、様々な疾患を統合して対応するプライマリケア医は一読が必要です。著者はアイルランドのEmma Wallaceさん達一般内科の方々です。

 Multimorbidityとは「2つ以上の慢性疾患の存在」と定義されています。そしてこのMultimorbidityはPolypharmacyとも関連しています。病院受診回数も多くなりますし、服薬管理も増えて、精神的ストレスも多いことが指摘されています。ストレス頻度を比較した研究では、慢性疾患1つだと23%、5つ以上で40%と言われています。また、最近の研究では、イギリスの6人に1人がmultimorbidityであること、65歳以上で65%、85歳以上で82%と年齢と同じ程度の頻度である事が報告されています。併存疾患の組み合わせという切り口では、「変形性関節症+心代謝疾患」が最多だったとのことです。

 multimorbidityについての難しさは、単一疾患ガイドラインでの対応は困難であることです。多くのガイドラインでは、multimorbidityを意識した推奨を行っていません。以前も紹介しましたが、78歳の心筋梗塞後、糖尿病、COPD、変形性膝関節症、うつ病がある患者さんでは、最低11種類の薬剤(10個まで追加可)、9つの生活習慣介入と年間8-10回の内科受診と8-30回の精神科受診、呼吸リハ・禁煙サポートが必要です・・・ってだいぶ大変ですよね。プライマリケア医が精通すべきは内科疾患のみではないことは自明だと思います。実は、Multimorbidityに対する介入法に対するコクラン研究が出ており、過去に10個のRCTが行われている模様ですが、結果はmixed resultsで一定の見解は得られていません。

 Polypharmacyについても色々報告がありますが、18万人のプライマリケアレベルでの研究では、multimorbidityがある患者の20%が4-9種類以上の内服薬、1%が10種類以上、6つ以上の併存疾患があると42%が10種類以上内服していると報告されていました。また、多くの処方が専門医が開始しプライマリケア医が引き継ぐ形で処方されています。医者間の連携無しでは、必要性の再評価は難しいと言われており、定期的な内服薬剤に対するreviewが必要で、STOPP/START/PROMPTなどの評価方法を使用しましょうと。

 上記の処方薬とも関連しますが、重要なのは医療の連続性です。併存疾患が多いと多施設多診療科を受診していることが多いです。そして、多くの場合医療者間のコミュニケーションは不足しています。75歳以上の患者の80%は特定の医者のみへの通院を希望しているというデータもあり、医療の連続性が入院率減少と関連していると言われています。大事なのはShared decision making(SDM)ですね。患者さんにとって最も重要視していることを確認し、何を重視し現在何に困っているかを明らかにしましょう。で、これをやろうとすると、通常の5-10分診療ではどうやっても困難です。診療時間が長いことは、予防医学の助言率向上、患者満足度向上、薬剤処方率低下と関連しているのだそうです。これはextra timeができることで、様々な問題への対応が可能になるから・・・とされています。これ、本当にそうですね。如何にextraの診療時間を確保するかも重要なポイントですね。

✓ 高齢化時代に向けてmultimorbidityへの対応が必要。multimorbidityに対する個別化した対応とケアの連続性を。


小児のよだれレビュー 
The drooling child*2

 こんなもん(失礼!)レビューしている人がいるんですねえ。実は子供のよだれは、QOLやケアに影響していると言われています。よだれを診た時に確認すべきポイントは?

①突然発症か? → 突然であれば感染症や異物を考える
②発達の遅れの有無 → ある場合には神経疾患
QOLへの影響は? → どれだけよだれをふくか?自己イメージに関連しているか?
④反復性呼吸感染は? → 嚥下機能に影響を与える
⑤唾液量が多い → 齲歯・薬剤・逆流性食道炎

あたりなんだそうです。なるほどねえ。

 診察すべきは、口腔内・鼻腔・咽喉頭で唾液腺腫脹や齲歯を確認しましょう。ただ、多くのよだれは社会性が出てくる6歳くらいまでの間に自然に治ります。上記チェック項目に問題が無ければ「大丈夫ですよ」と安心させることが重要です。

✓ 小児のよだれが主訴の場合に聞くべき事を整理しておく。6歳までは正常範囲なので慌てない。


主要アウトカムをどれだけ報告しているか 
Completeness of main outcomes across randomized trials in entire discipline: survey of chronic lung disease outcomes in preterm infants*3

 様々なRCTやシステマティックレビューが日々発表されていますが、今回のテーマはその報告されているメインアウトカムをどうするか?という問題。studyによってあいまいで、最終的にデータ統合するにあたって異質性の元にもなるし、ある程度似たような研究のメインアウトカムを決めておくことは大事だよね、という話題です。例えば、同じ心筋梗塞のstudyでも、メインアウトカムが死亡率だったり入院率だったり、狭心症入院だったり、コンポジットだったり・・・これでは困ってしまいます。

 今回詳細は割愛しますが、Cochraneのデータベースを元にしてシステマティックレビューの調査を元に、preterm infantへの様々な介入法を検討した174のシステマティックレビュー、1041件のRCTを検証しています。ポイントは、メインアウトカムを真のアウトカムであるChornic lung diseaseに設定しているかどうかを調査しました。結果としては、105/174(60%)の研究で、Chornic lung diseaseをアウトカムに設定していましたが、RCT単体でみるとでは321/1041件(30%)に留まりました。小児では更にChornic lung diseaseをアウトカムにしたstudyは48/86(56%)と報告されました。

 やはり、研究毎にアウトカムがばらつきすぎるのは問題と。特にRCTで治療効果を判定する場合には、いたずらにサロゲートアウトカムのRCTが増えていくより、同じアウトカムで様々な検証がされた方が良いかなと思います。

 あとは、どの疾患でどのアウトカムを調べる必要があるかを統一する必要があり、「COMET」というプロジェクトが、RCTで必ず見るべき項目とその定義統一を図っていくことになりそうです。

✓ RCTのアウトカムはstudy毎に異なるのが現状だが、今後はアウトカム項目・定義の統一を目指していく


■Lancet■

関節リウマチの運動プログラム 
Towards evidence-based hand exewcises in rheumatoid arthritis*4

f:id:tyabu7973:20150208122104j:plain

(論文より引用)

 関節リウマチは、言わずと知れた全人口の0.5%を占める最多の炎症性関節疾患です。今回2014年10月にLancet誌上に、運動療法が関節リウマチの機能回復をもたらすと報告したSARAH trialというRCTについてのeditorialが掲載されていました。

Exercises to improve function of the rheumatoid hand (SARAH): a randomised controlled trial
Lancet. 2014 Oct 9. pii: S0140-6736(14)60998-3. doi: 10.1016/S0140-6736(14)60998-3. *5
P:イギリスの17施設に通院している490人の手の痛みと機能障害がある関節リウマチ患者、最低3ヶ月治療内容は安定
E:通常ケア+手のストレッチ・運動療法(理学療法作業療法による)
C:通常ケア
O:12ヶ月後のミシガンHAQの手の機能スコア
T:RCT
結果:手の機能スコアは通常ケア群で3.6点(95%CI 1.5-5.7)、介入群で7.9点(6.0-9.9)上昇し、統計的に有意な差だった。治療による有害事象は無く、医療費や薬剤治療内容に差は無かった。


 こんな結果のRCTですね。実は過去の関節リウマチに対するリハビリ・運動療法の効果は十分証明されておらず、controcercyだとされてきました。今回のRCTでしっかり効果が出た為、大きな一歩だと評価されています。一方で、今回のstudyの組み入れ患者は「やる気がある」バイアスがかかっている可能性があり、複数のstudyでの再評価が必要になると思います。また、実際には関節リウマチに対する運動療法が定着していない為、therapistの教育なども必要になる可能性がありますね。

✓ 関節リウマチの手の機能回復に、作業・理学療法による運動リハビリ療法が有効だった


中国のSTEMIの治療成績 コホート研究 
ST-segment elevation myocardial infarction in China from 2001 to 2011(the China PEACE-Retrospective Acute Myocardial Infarction Study): a retrospective analysis of hospital data*6

 また中国からでてきましたね。今回は中国全体のNational cohortで、中国のSTEMIの治療実態が良く分かるデータです。随所に興味深いところがあります。中国では慢性心不全が増えており、急性心筋梗塞も増加の一途を辿っています。興味深いことに、AMIの80%がSTEMIなんだそうです。日本も含めた多くの国々でNSTEMIが増えている中で対象的です。で、今回国全体の治療アドヒアランスや予後が分かっていないので検証しましょうというのが目標です。

 対象は中国の非軍人病院6623病院のうち、地域毎にランダムピックアップして、抜き打ち的な抽出を行っています。175病院で18631件の心筋梗塞が検証対象となりました。データは退院時診断で、AMIでピックアップし、後方視的に診療録でSTEMIかどうかを確認しています。ちなみに参加拒否した病院も複数(反応無し7件、拒否6件)ありました。
 論文のPECOですが、

P:中国の非軍人病院6623病院のうちランダムに175病院/18631件の心筋梗塞患者(STEMIは13815件)
E:診療録ベースにデータ抽出
C:2001年、2006年、2011年の経時的データ
O:STEMI入院率、治療内容、院内死亡
T:後ろ向きコホート
結果:
 ちなみに2001年から2011年に向けてSTEMIの入院率は右肩上がりです。
①STEMI入院率(10万人あたり):3.5(2001年)→7.9(2006年)→15.4(2011年)
②治療内容:
・24時間以内のアスピリン:2001年 79.7%(77.9-81.5%)→2011年 91.2%(90.5-91.8%)
・クロピドグレル:2001年 1.5%(1.0-2.1%)→2011年 82.1%(81.1-83.0%)
PCI施行率:2001年 10.6%(8.6-12.6%)→2011年 28.1%(26.6-29.7%)
③院内死亡率/入院期間
・院内死亡:2001年と2011年を比較してodds ratio 0.82(0.62-1.10)で有意差は認めなかった
・入院期間:2001年 12日(7-18日)、2011年 10日(6-14日)

 
 この10年の格段の進歩が見られますね。興味深かったのはTraditional herbの使用率です。要は漢方薬ですね。中国では、STEMI24時間後に漢方薬を57.4%(56.2-58.6%)、退院までに68.8%(67.7-69.9%)内服している模様です。すごいな、何を飲むんだろう。むしろこっちに興味津々。

✓ 中国のSTEMI診療は進歩している。AMIの中でSTEMIが80%で、漢方薬を6-7割内服している