■JAMA■
医療過剰
Update on Medical Overuse*1
Medical Overuse特集はBMJの十八番かと思っていたら、JAMAでも"less is more"を合い言葉に今回特集が行われていました。マリーランド大学の臨床疫学教授で、Welch Allynや3MとのCOI関係がある方です。あ、ちなみにこれJAMA Int Medでした。ご勘弁下さい。
Medical Overuseは「害が利益を上回る診療行為」と定義されています。診断に関してはOverdiagnosis、治療に関してはOvertreatmentという言葉が使用されます。具体的に、
Overdiagnosis:将来症状を起こす可能性の少ない病変を見つけること
Overtreatment:①将来症状を起こす可能性の少ない病変を治療すること、②ほんのわずかしか利益のない治療、③代替療法と比べて高価・複雑すぎる治療
とされていますが、程度問題の判断は難しい事もありますよね。Medical overuseは患者満足度の低下と関連していると言われ、患者の20%は過去2年間に自身が受けた医療行為は効果が無かったと返答しています。今回は、2013年に発表され、Medical Overuse関連の論文が検索され、1177件の検索された論文のうち478件をreview、質の良い126件のうち、最も良質な10件を一挙公開していきます。今回はそのうち5つくらい紹介します。興味のある人は本文を。
①患者を安心させる目的で検査をするな
紹介患者の1/3は原因不明の症状と言われています。ある14個の研究のSys reviewでは、検査を行う事で患者の不安・症状持続・生活支障度には影響を与えなかったと報告されました。ただ、検査によって病院再受診を減らしたかもと。というわけで、安心目的の検査は行うべきではないと。
②珍しい疾患の検査は慎重に
Wilson病のスクリーニング検査にセルロプラスミンが用いられることがありますよと。ところが、一般的には疾患分布の観点からセルロプラスミン検査は3-55歳の肝障害患者で推奨されています。ある施設で行われてセルロプラスミン検査 5325件を検討した結果、最終的に診断されたのは8例で偽陽性 416件、偽陽性率98%という結果でした。多くは適応外の年齢での検査だったとのこと。検査を出す前に、きちんと臨床的に検討しましょうと。検査前確率の低い段階で稀少疾患に関連した検査を行う事は偽陽性を生むことになります。
③不適切な抗菌薬使用はCDIを増やす
CDIは基本的にはほぼ全例で先行する抗菌薬使用があって発症する医原性疾患。そして、抗菌薬処方の約半数は不適切処方とされています。カナダ2施設の後ろ向き観察研究で126人の院内発症CDIを検証したところ、74%で1回以上の不適切抗菌薬使用があり、誤診・empirical治療・長期過剰投与が関連した原因でした。また、68%でPPIも内服していたとのこと。
しっかりした適応のない抗菌薬やPPIはCDIおよび耐性菌の観点からも処方すべきではありません。
④手術率の地域差は医者個人が原因
手術療法の施行率は疾患にも寄りますが、地域差があると言われています。アメリカ内外に関わらず、手術率は地域によって4倍も差があるのだとか。例えば、地域差の大きい手術として、前立腺摘出・頸動脈手術・PCI・脊椎手術が挙げられます。逆に地域差が少ないのは、股関節手術・大腸癌手術が挙げられます。これは、利益・害のバランスが不明瞭か否かによるのだそうです。また、紹介プライマリケア医の好みに依存したり、手術施設の有無によっても適応が変わるのだとか。この辺りは、単なる地域差で片付けずに、冷静な判断を下していく必要があります。
⑤肺塞栓症の過剰診断と害
肺塞栓症は歴史的には、診断困難な重症疾患と考えられていましたが、造影CT検査の普及で迅速に診断される様になってきました。ちなみに2001年から2014年の疫学比較で、PTEは14倍に増えたけれど、年齢調整死亡率には変化がなかったそうです。この頻度は増えたけど死亡数が増えないというのは、劇的な治療法の確立などが無ければ、Overdiagnosisの所見という訳です。例えば、外傷・挿管患者で偶発的に発見されるPTEは16-20%にも及び、PTEに対する抗凝固に起因する出血入院は71%も増えたのだとか。
確かに全くもってけろっとしているPTEの患者さんは結構いますもんね。
✓ Medical OveruseにはOverdiagnosisとOvertreatmentがある
CDIのレビュー
Diagnosis and treatment of Clostridium difficile in adults*2
CDIの話題が続いています。今回は、St John病院感染症科のNatasha先生のreviewでCOIは無い方です。検索対象は1978-2014年までのMEDLINE/Cochraneで「Clostridium difficile」を検索し、4486件が検索され、そのうち116件をreviewしています。
【背景】
Clostridium difficileが抗菌薬関連下痢の原因として初めて報告されたのが1978年なんだそうです。2000年にBI/NAP1/027株が出現してから治療抵抗性が増加して、やっかいな感染症の一つとなりました。米国では2001年から2010年にかけて頻度は約2倍まで増えています。
【診断】
CDIは基本的に臨床症状ありきなので、検査のみで診断することは出来ません。診断の必要十分条件は、
①下痢(非固形便1日3回以上)か画像所見(巨大結腸)
②CD毒素検査陽性か内視鏡的所見か組織学的所見
となっています。検査のみで診断を使用とすると偽陽性が増えてしまいます。例えば、CDIの56%は治療後症状が改善しても6週間はC.difficileを排泄していると言われています。この辺りが、治療効果判定にtoxin検査を行ってはいけない理由の一つです。また、無症候性キャリアは症候性CDIのリスクにはならないという報告もあり、毒素産生があるからといって、無症状の方を治療することは勧められません。また、CDI治癒後2週間程度は35%程度の過敏性腸症候群様の症状が出現することが知られており、CDI後IBSとも言われています。
【検査】
Gold standardは嫌気性培地での培養で24-48時間かかります。また、培養が出来ない施設も多いかと思います。迅速検査ではGlutamate Dehydrogenase(GDH)法とELISA法によるToxin A or Bの確認があり、GDH法は毒素産生・非産生を区別出来ないのが難点です。多くのガイドラインや専門家は複数の検査を推奨していますが、現実的には複数検査はなかなか難しいでしょうね。下記の検査組み合わせで感度91%、特異度98%とも報告されています。
(本文より引用)
【治療】
2000年以降、治療失敗が増えており、理由の一つはメトロニダゾールへの耐性化が進んでいることと言われています。症状の程度から軽症〜重症を分類し、それによって治療方法を検討しています。様々な重症度予測スコアはありますが、2010年IDSAのガイドラインでは、
軽症:WBC<15000 かつ Cr<1.5
重症:WBC≧15000 か Cr≧1.5
重症かつ複雑性:ショックか巨大結腸
とシンプルに分類しています。
治療原則として、まずは誘引となる抗菌薬の中止です。抗菌薬の中止のみで15%は症状が自然軽快したと言う報告もあります。逆に使用継続はCDI再発と関連するとも言われています。第3世代セフェムは OR 3.2、クリンダマイシン OR 2.86と言われており、意外とセフェムも高いです。また、フルオロキノロンは上記耐性のBI/NAP1/O27株と関連しています。
軽症〜中等症CDI:メトロニダゾール 500mg 3回/日 10-14日
重症CDI:バンコマイシン 125mg 4回/日 10-14日
ですが、専門家の中にはVCMをもう少し高容量使用することを好む人もいます。また、メトロニダゾールの治療失敗と関連した因子として、60歳以上/発熱/低アルブミン血症/WBC上昇/ICU患者/CT異常所見などがあります。
その他のVCM注腸やメトロ静注、整腸剤、毒素吸着、テイコプラニン?などはほぼno evidenceではあります。今後は、フィダキソマイシンや便置換療法に期待ですね。
✓ CDIは予防可能な疾病であり、余計な抗菌薬使用を減らそう
重症患者へのクロルヘキシジン浴
Chlorhexidine bathing and health care-associated infections*3
クロルヘキシジン入浴が耐性菌を減らしたり菌血症を減らしたりという効果を証明したRCTがありますが、今回のRCTは、それを検証することと、それ以外の医療関連感染(HAI)全体の効果を検証することを目的としています。
今回の論文のPECOですが、
P:テネシーナッシュビルの3次救急病院の5カ所のICU入室患者全員
E:クロルヘキシジン入浴
C:入浴
O:composite outcome(CDI・CLABSI・CAUTI・VAP)、CDCサーベイランス基準に準じて診断
T:pragmatic cluster RCT
結果:
まず除外基準として、熱傷やSteven Johnsonを除外しています。研究の中身ですが、pragmatic clusterで行っている為、最初10週間介入・コントロール期間を置き、2週間のwashout期間をおいて、同じことを3回繰り返しています。
結果として、10783人の患者が組み入れられ、最終的に9340人が解析対象になりました。結果のcomposite outcomeは、クロルヘキシジン群 2.86(2.11-3.62)、通常群 2.90(2.16-3.63)で、2群間に有意差はありませんでした。何より凄いのは、医療関連感染の起こらなさで、ICU入院患者9340人の患者の内、110人にしか医療関連感染が起きていないということです。 これは凄いことですよね。まあ、ただ今回negative studyだったため、過去の研究とは解離する結果となりました。
editorialでも、今回の問題点として.
①アドヒアランスが不明
②そもそもなぜVAPやCAUTI・CDIなどの感染をcompositeに含んだのか?もともと皮膚消毒の効果は少ないことは分かっている
③アウトカムの感染の数が少ない
④研究が予めregistry登録されていなかった
ことを指摘しています。過去のstudyで効果があったものも検証すると、片方はMRSAのcolonizationを減らしただけでは?とか、contaminationを減らしただけでは?という厳しい突っ込みもあり、現時点では、クロルヘキシジン入浴の効果は決定的では無いとしています。まあまずは手指衛生をしっかりやろうねと。
✓ クロルヘキシジン入浴は、医療関連感染全体を減らさなかった
■NEJM■
アレルギー性鼻炎
Allergic rhinitis*4
アレルギー性鼻炎の流行時期も近づいてきていますが、今回NIHのアレルギー部門のLisa M Wheatley先生のreviewがNEJMに掲載されていました。流行する前に一度整理しておきましょう。ちなみに去年私は院内クルズスでまとめましたが・・・
【概論】
アレルギー性鼻炎は「アレルゲンで誘発されるTh2細胞によるIgE介在反応」と定義され、症状としてはくしゃみ・鼻掻痒・鼻閉塞感・鼻汁がメインです。重要なアレルゲンとしては、季節性の場合には花粉・カビ、通年性の場合にはダニ・埃・ペット・カビがあります。アレルゲンへの感作は1歳から始まると言われ、屋内へのアレルゲンへの感作が先で、2-3歳はウイルス感染との鑑別が困難と言われ、20-40歳代が罹患率のピークで減少に転ずると言われています。
【疫学】
罹患率としては、医者診断は15%程度、患者申告では30%程度だったという報告もあり、頻度はかなり多い疾患です。QOLや日常生活活動度に支障を来します。また、喘息患者に合併することが多く、アトピー性湿疹が鼻炎に先行することもよく知られています。親が鼻炎だと罹患リスクは2倍で、逆に農場で暮らしているとアレルギー性鼻炎が減ることも知られています。基本的には、ヒスタミンやロイコトリエンなどの急性の鼻症状から始まり、暴露数時間までは過敏状態が続く為、本来はアレルゲンではないはずのものにも反応してしまうことが知られています。
【診断】
臨床症状と治療反応性で判断するのが基本です。皮膚試験や血清学的試験については、どちらも同様の走査特性ですが、検査解釈には訓練が必要です。
【治療】
治療の最初には、患者が自己判断で経口H1拮抗薬を開始していることが多いです。また、第一選択とされている点鼻ステロイドにも市販薬があるため、医療機関を利用せず、OTC薬剤で対応する患者も多い様です。治療反応性としては、季節性では1日以内、通年性では効果発現まで数週間程度経過観察が必要とされています。薬物療法に抵抗性の場合には、免疫療法も一つの方法にはなります。免疫療法の良い点は、中止後も効果が残存することで、3年間の脱感感作療法後に3年間効果が持続すると言われています。ちなみに脱感作には皮下投与と舌下投与がある模様です。
✓ アレルギー性鼻炎の第一選択は点鼻ステロイド。難治性例では脱感作療法を検討しましょう
妊娠高血圧への至適血圧
Less-tight versus control of hypertension in pregnancy*5
最近NEJMは妊婦さん特集ですね。GDMに続いて今度は高血圧。実は妊娠中の至適血圧ってsmall RCTしかなかったために、十分な検証はされてきませんでした。今回は、そんな妊婦さん高血圧至適血圧を考える為のRCTが発表されていたので読んでみました。
P:妊娠14-33週で拡張期血圧 90-105mmHgもしくは降圧剤内服して拡張期血圧 85-105mmHgの患者 987人
E:拡張期血圧≦100mmHg
C:拡張期血圧≦85mmHg
O:Composite outcome:妊娠失敗 または 出生後28日以内に48時間以上ハイケア病棟での処置を受けた胎児
T:多施設共同RCT
結果:
患者群は平均34歳と若く、収縮期血圧140、拡張期血圧92mmHg前後でした。既に内服薬を飲んでいる人が56%もいました。プライマリアウトカムは、拡張期≦100mmHg群で155件(31.4%)、通常の拡張期≦85mmHg群で150件(30.7%)であり、両群に有意差は認めませんでした。
妊婦さんの高血圧は増えていて、1995年 0.9%程度だったのが2007年には1.5%になったというデータもある様です。高齢化と肥満が原因とされ、現時点での治療適応は、収縮期血圧≧160mmHg、拡張期 105-100mmHgとされています。今回は、妊婦さんではあまり厳密に下げすぎてもアウトカムは変わらないという結果でした。
✓ 妊娠中の高血圧は拡張期100mmHgまででコントロールしても80mmHgでコントロールしても妊娠経過や胎児への影響は変わらない