書かれた作品への抗議について

北海道在住の者です。中頓別町出身ではありません。以前、「ドライブ・マイ・カー」の中の表現で、車からの煙草ポイ捨て場面に関して町議が抗議し、村上さんが町名は使用しないことに変更されたという出来事がありました。北海道民の私として大変恥ずかしく、また哀しい出来事でした。ジャンルは違いますが、先日はサザンオールスターズの桑田さんが叩かれて謝罪文を発表する事態に。このような表現の自由を巡る事件について、村上さんはどのように感じていらっしゃいますか。
(miyuki、女性、55歳)

僕は小説の中でいろんなものごと・できごとを書きますが、できるだけいろんな人を傷つけないようにと、いつも気を配って書いています。人をいやな気持ちにさせることは僕の本意ではありません。もちろんそれが小説にとって欠かせない要素であれば話はべつですが、もしそうでないのならなるべく人をネガティブに刺激したくない。もしそれが技術的に変更できるものなら、変更します。「中頓別」の問題は技術的変更がわりに簡単に可能であったので、すぐに変更しました。新聞で報道されたことによってわりに大きな話題になりました。それほどのできごとでもなかろうと僕は思うんですが。もちろん僕ももう少し注意深くあるべきだったんだけど。

村上春樹拝