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目指すべきはフルスタックにあらず~海外とのリモート開発を行うピースオブケイクに聞く「世界で通用する開発者」とは

2015/02/09公開

 

コンテンツ配信プラットフォームの『cakes』と『note』を運営する、ピースオブケイク。実は彼らの開発が、日本だけでなく海外でも行われているのをご存知だろうか。

実装拠点は日本、シンガポール、ベトナム・ハノイ。本社がある日本との「リモート開発」でサービス運営が行われているという。

このリモート開発を行っている理由や、国をまたいだ遠隔でのサービス運営を上手にこなすチームビルディングのコツを、シンガポールで働く同社CTOの原永淳氏とソフトウェアエンジニア尾島恵太氏に聞いた。

そこから見えたのは、日本人エンジニアが国内外を問わず成長していくために必要な考え方だった。

プロフィール

株式会社ピースオブケイク CTO
原永 淳氏

1977年、兵庫県生まれ。ヤフーにてトップページのシステム開発・運用、マイヤフーのローカライズなどを担当。独立後はスパーク・ラボを設立。『cooboo』を運営しGMOペパボに事業譲渡。ブラケット取締役兼CTOを経て、ピースオブケイクの取締役CTOに就任

プロフィール

株式会社ピースオブケイク ソフトウェアエンジニア
尾島恵太氏

1984年、福島県生まれ。シンガポール在住。東京工科大学コンピュータサイエンス学部卒業後、国内SIerにてSEとして勤務。2010年よりスパーク・ラボにて、WebエンジニアとしてさまざまなWebサービスの開発に携わる。2013年4月、ピースオブケイクに入社

リモート開発は「始まり」と「終わり」が肝心

―― 原永さんと初めてお会いしたのは、昨年(2014年)、シンガポールで開催されたイベント「Echelon」でのことでした。ピースオブケイクは日本でサービスを展開しているので、出張して参加されたのかなと思っていたのですが、実は原永さんがシンガポールを拠点にしていると知って驚きました。

原永 はい、よく驚かれます。こちらに移ったのは、ピースオブケイクに参画した後のことで、2013年4月ですね。

―― 2013年4月というと、御社にとって2度目にあたる、総額3億円の資金調達をされた直前ということになりますね。たしか目的は、人材を増やし、組織体制を強化することでした。当時から組織はさらに拡大したかと思いますが、今の開発体制を教えて下さい。

原永 日本には、エンジニアとデザイナーが5人、シンガポールにCTOの私と、隣にいる尾島くん。ベトナムには、ベトナム人のエンジニアが4人がいます。

―― 率直に浮かぶ疑問としては、CTOが海外にいて、それだけでなくプロダクトを日本とシンガポールとベトナムで「リモート開発」して、開発チームがうまく回るのかということです。

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エンジニアは自分の得意分野を活かして働くべきと語る

原永 開発に関しては、トップダウンではありません。経営の意思決定をしたあとは、プライオリティとスケジュールを考えて、あとは、それぞれのエンジニアの得意分野や性格を考えて、一番パフォーマンスを出せる役割分担をしています。

そして、今現場にいる若手エンジニアたちをこのチームで上に立つ人に育てなければいけない、そう思ってやっているんです。そのために、今でもすでに現場に大きく権限を移譲しています。

当社には『cakes』と『note』という2つのプロダクトがあり、それぞれiOSでもAndroidでもWebでも展開しているため、同時にたくさんのプロジェクトを走らせています。エンジニアは自分の得意分野を活かして、iOSとandroidの開発、サーバーサイドとインフラ、androidとサーバーサイドといったように最低2つ以上の担当をしてもらっています。

そして、それぞれのプロジェクトでリーダーを決定。そのリーダーは、たとえエンジニアであっても、プロジェクトの進行やスケジュール管理をし、マーケティングチームとのKPIへの影響調査やプロモーション施策までを含めた、プロジェクト単位での管理を担当します。

私とのコミュニケーションは、毎日の朝会、HipchatやChatworkを使ったチャット、appear.inなどを使ったミーティング、ドックフーディングとして使っている社内用のnoteだけです。

―― エンジニアには高度な自律が求められますね。

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2015年1月現在7000本以上の記事、400人以上のクリエイターが、経済、文化、芸能、海外情報など読み手の生活を豊かにするコンテンツを提供している『cakes』

原永 ですから、まず「締め切り」の意識だけはチーム全体に植え付けるようにしてきました。

最近は「アジャイル」という言葉だけが走りすぎて、ゴールまでの期限がないがしろにされる風潮を感じますが、締め切りに収まるようにプライオリティや解決方法を考えるのがプロフェッショナルの仕事と考えています。

仕組み化もしていて、1つのプロジェクトのサイズを、できる限り小さな単位にしています。もしそれ以上かかりそうなら、最低限実現したいことだけに絞ってプロジェクトを短期間化させる。そうすることで常にタイトな状況を作ることができますし、かつ完了後のフィードバックがより具体化されます。

―― 日本と海外2拠点で行う、リモート開発の秘訣を教えて下さい。私が特に難しそうだなと感じるのは、プロジェクトが走り始めてからしばらく経ち、チームの一体感が薄れてきたときに起こる遅延です。

原永 リモートで行うプロジェクトって「始まり」が肝心なんですよ。始めにエンジニアのやる気を引き出し、良いチームワークを作り出せるか。それができて、先ほどのようにプロジェクトをタイトにすれば、後は走り続けるしかないので、意外とうまくいくものです。

これは日本人であろうとベトナム人であろうと変わらない、世界共通であることが分かってきたのですが、エンジニアのモチベーションを引き上げるもっとも効果的な手段は、彼らのエンジニアリング的な好奇心を満足させることです。

ですから、どの技術を採用するかなど、作り方についてはいっさい指示しません。自分が学びたい、試してみたい技術で好きなようにやってもらいます。

もちろん始まりだけでなく、プロジェクトが走り始めてからも、彼らのモチベーションを維持するよう努めています。

例えば、ベトナムのエンジニアに指示をだすときも、機能開発をするに至った経緯を説明して、開発に意義とストーリーを持たせています。そして、各機能がとても重要であることを伝えて、それを信頼して任せるということを伝えるようにしています。

そして、日々のコミュニケーションはとても大切です。顔が見える状態での朝会を毎日実施しています。

尾島 「始まり」について補足すると、リモートになる前に、対面してお互いどんな人かを知っておいた方がいいでしょう。そうしないと、なかなかうまくいきません。

私がシンガポールに来てから、日本にモバイルアプリエンジニアが新しく加入したのですが、そのエンジニアとオリエンテーションを兼ねてコミュニケーションを取るため、日本に戻ったりもしました。これは今思い返しても、とても有意義であったと感じています。

プロジェクトにおいては、「終わり」も大切ですね。

―― どういうことでしょうか。

尾島 これはベトナム人のエンジニアとのやりとりで感じたことですが、プロジェクトが終盤にさし掛かって、完成度を8割から10割に引き上げる局面でのディレクションがとても難しいんですよ。

特に、根気が求められる細かい箇所の修正や、エフェクトなどビジュアルのセンスやクリエイティビティーが求められる箇所の修正は、日本人の方が得意です。そんな時は、あらためてプロジェクト全体における重要性を伝え、もしも言葉(英語)で伝えて腑に落ちないようだったら、直感的に理解しやすいように絵を描いて説明するなどしています。

終盤で苦労してでき上がったものと、8割の完成度だった時のものとを見比べると、彼らも違いが分かり、修正してよかったと理解してくれるんです。そうやって、感覚をすり合わせたり、信頼関係を構築してきました。

グローバルで開発をするのが当たり前の時代がやってくる

―― ここまで苦労して、リモート開発をする理由は何なのですか。

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ベトナム人エンジニアたちと。ハノイにて

原永 cakesやnoteも含め、これからありとあらゆるWebサービス、それを運営する企業が海外市場を目指すようになるでしょう。そんな時代に求められるのは、「フルスタックエンジニア」ではなく、「ハイブリッドエンジニア」だと考えているんです。

私が考える「ハイブリッドエンジニア」とは、エンジニアリング以外のもう一つのスキルを持っているエンジニア像のことで、そういう人材、組織を育てようと実験的に行っているんです。

特にこれからは、いろんな国籍や文化を持つ誰かと、コミュニケーションをしながら開発するスキルがエンジニアにも求められるようになると思います。

―― そのようなエンジニアになるには何が必要だと思いますか?

原永 「日本の常識は、海外の非常識」ということを、まず身をもって痛感することです。日本では相手が空気を読んだり、こちらの意図を汲み取ってくれるのを期待してしまいますが、海外、特にアジアではそんなことはしてくれません。

プロジェクトの会議で少しでも締め切りや役割分担を曖昧にしようものなら、絶対にそれ以上、物事が前に進んでいきませんから。

遠慮せず「これをやってくれ」、「いつまでにやってくれ」と指示し、コミットしてもらうようコミュニケーションし続ける必要があります。

―― たしかに、日本人の気質的には難しいかもしれません。

原永 それでも、結果としてプロジェクトをうまく完了させることができれば、成功体験を共有し、信頼関係を構築することにつながりますからね。

尾島 私は以前から自分の考えたことをきちんと言う方でしたが、ますます空気を読まなくなってきたとは思います(笑)。

原永 日本に一時帰国した時も、社長から「たくましくなったな」と言われてたね。

日本のエンジニアは、自分よりも優秀なエンジニアが自分よりもうんと安い給料で働いている状況や、給料が毎年15%上昇しているような状況を自分の目で見た方がいい。

まだまだ先の話だとは思いますが、日本の企業が海外企業のオフショア先になるシーンも起こりうると思います。その時に、ただ使われるだけの人材にならないように、将来も活躍できる道を今から模索した方がよいかと。

―― 日本人に残される強みとは何でしょうか。

尾島 今現在、文化、生活様式、また情報量の違いにより、インターネットが日常生活に与える影響は大きいです。これからベトナムを始め新興国は、発展していく中で私たちが通った道を通ることになりますよね。そうしたときに、グローバルに先端的なサービスを一度でも体験しているかがアドバンテージになります。

原永 私が伝えたいのは、日本人だけでやっている現状が異常な状態であるということが、国の外に身をおくことで分かったということ。エンジニア不足でどのスタートアップも人材獲得に必死です。エンジニアの採用を日本だけでするよりも、グローバルで採用すればいいんです。

どうしてそれができないかというと、外国人をどのようにマネージメント、ディレクションすればいいかわからない、英語ができないなどの危惧があるからだと思います。ベトナムのエンジニアはほとんど英語を話します。技術レベルに国は関係ありません。同じです。中には日本語を話す人もいます。エンジニアとして同じ土俵に立った時、どちらがグローバル市場で求められるかということを意識することが重要だと思います。

―― 本日はありがとうございました。

取材・文・撮影/岡 徳之(Noriyuki Oka Tokyo


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