2015-02-08
『アイドルマスター シンデレラガールズ』 第4話 「Everyday life, really full of joy!」 感想
物語を彩る少女たちの素顔に迫るドキュメンタリーなフィルム。そう読み説けば間違いなく連想してしまうのは前作 『THE IDOLM@STER』 の幕開けとなったあの第1話でもあるわけですが、この作品もその例に漏れることはなく見事なまでに前作を踏襲した作りになっていたように思います。
それもこの挿話を絵コンテ・演出・作監というセクションから屋台骨の如く支えて下さったのは当の作品でも非常に尽力して下さった赤井俊文さんです。多くのスタッフ・関係者が前作から継承されていく中にあって、氏がこうも全身全霊のかたちをもって登壇してくれたことはアニメ 『アイドルマスターシリーズ』 の大ファンである私にとっても大変喜ばしいことで、もはやそうした巡り合わせに対しては厚い感謝の念を抱かざるを得ませんでした。
また、何より驚かされたのはそうしたフィルムの中に収められた個々性の中で一際異彩を放っていた前川みくの表情とその裏表にこそあったように思えました。原作からして多少はそうしたニュアンスを匂わせていた彼女ではありますが、それら二つの表情をこうも感情の込もるフィルターを通し捉えてくるとはいやはや恐るべしアニメ 『シンデレラガールズ』 といった面持ちで。
カメラを向けられればひょうきんな猫の皮を被るそのアイドル根性に反し、フレームの外では何かを背負い、胸に熱いものを携えているようにも感じられるその素顔を見せられればどうしたって拳を握らずには居られなくなると言いますか。オンショットとオフショットの乖離。猫耳という上辺と現実とのギャップ。その表情に影が差し込めば “何か” が浮き彫りになるそれは、やはり彼女だけの物語でもあるのだなぁと。
また、だからこそ見えてくる本挿話の意味と意義。それは決して彼女たち一人一人の素性を映し撮ることだけにあったのではなく、それぞれに根付いた物語の新芽をそっと心の片隅に置いておくためのプロローグそのものでもあったんじゃないかってことなんですよね。懇切丁寧なまでに彼女たちの性格を教えてくれるかのよう動き回る作画の趣きもようは全てそうした物語のための布石で、この子はこれこれこういう子だからこう動くのだろうし、だからこそこういう表情をする、故に彼女はこれからこうした物語を歩むのだろう―― という、ようは未来視的解釈をするための映像でもそれはあったのだということ。
それこそまだまだ幼気な彼女たちではあるし、「あなたにとってアイドルとは?」 なんていう質問にさえきっと明確に応えられない子だって多く居ることに間違いはないのでしょうけど、その胸中には荒削りながらも力強い一つの芯が確かにあるのだと感じることの出来る映像の捉え方が本当に素敵だなと思いました。
もちろん、そうは言っても捉えようによっては “色物” と後ろ指を差されてしまうそれは地に足のついていないアイドル像でもあるのかも知れませんし、むしろ彼女たちはそうして自らを “着飾る” ことでしか各々のパーソナリティを見出すことが出来ないんじゃないかとも思います。でも、むしろ今はそれでいいんじゃないかって思うんですよね。
だって、私たちは知っているわけじゃないですか。“誰も” が最初から完璧なわけじゃないんだって。最初から転ばず、躓かずに歩き始められるアイドルなんて何処にもいないんだって。少なくとも私はそんな “原風景” をこの胸に大切に抱えているからこそこうして “それぞれの色” が滲み出す程の始まりを目の当たりに心を躍せてしまったのでしょうし、だからこそその姿に感慨を感じずには居られなかったのだろうと思うのです。
始まりなんてこんなもの。荒削りで、わがままで、不器用で、誰もが “アイドル” という “職業” に対し切実に向き合うことが出来ていない。けれどこの物語は12時の鐘が鳴るそれより以前の 『シンデレラストーリー』。誰もがまだまだあの眩いほどの抜け道へと繋がる階段を登り始めたばかりなんです。だからこそ、ワクワクするじゃないですか。ドキドキするじゃないですか。彼女たちのこれからを想像する度に、この物語の先にこそオープニングにより描かれたあの舞台があるのだと想像する度に涙が目尻に溜まってしまう。
「ああ、彼女たちはこれからこの表情をどんな風に変えていくのだろう。」 そういうロマンにこそ アニメ『アイドルマスターシリーズ』 に込められたドラマの血脈ってあるように私は思えてならないのです。
そして、それはこの挿話を観終えた後にこそ、あの 『お願い!シンデレラ』 の映像を観れば必然と涙が流れてしまうことの最大にしてただ一つの理由でもあったのだろうと思います。
「仕事なんかしたくない――」 そう語る双葉杏がその指を真っ直ぐ伸ばし、歌って、踊るという、それも彼女だけのために用意された “理想像(アイドルマスター)” に至るための物語。今だ語られぬ場所にこそ “過程” と “成長” を添えてしまう映像の魔法。言葉では語らず行間を埋める高雄統子監督の真骨頂。
そうした物語の片鱗を観る度にこの作品が持つポテンシャルの高さには強く驚かされるばかりですし、それは今回のこのフィルムに収められたどの少女に対しても当て嵌めることの出来る 『アイドルマスター シンデレラガールズ』 という作品の “色” そのものでもあったのではないでしょうか。
それこそ私は冒頭に 「前作を見事に踏襲したフィルム」 とこの挿話を称してしまったわけですが、終わってみればそんな印象もどこ吹く風。後に残るのは346プロにしか醸し出すことの出来ない残り香だけだったのだから、むしろそれだけで彼女たちの門出を見送った気持ちでこの胸はいっぱいに満たされてしまうというもの。
ただまぁ、それもプロデューサーがああして含み笑いを添えたように少しばかり気負いのないスタートではありましたが、それもまた彼女たちらしさ、彼女たちの魅力であることに違いはないのでしょう。
これからこの物語がどう進み、どのような紆余曲折を経るのかはまだわかりませんが、その大枠を想い浮かべながら彼女たちの表情一つ一つに私自身も一喜一憂出来ればそれに勝る喜びなど他にはありません。それこそこの挿話ほどまでに作画のリソースを毎話割いて欲しいなどと夢のようなことを言うつもりは毛頭ないですが、これからも描かれるであろう繊細な彼女たちの所作に対しては、少しでも目を配らせ、捉えることが出来ればとても嬉しいですし、そうして本作に寄せた期待を心の片隅に携えながら、一話ずつ、しっかりとこの物語楽しんでいければいいなと思います。
それもほぼ9割方主観で通された今話のフィルム。このフィルターこそが “彼女たちらしさ” なのだという基盤を胸に、その後姿を今後もしっかりと見守っていきたいなと今は強く願うばかりです。
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