はじめに
具体的な分析結果を見ながらテレマティクスのもつポテンシャルを3回に分けて解説しています。最終回の今回は,事例3から事例5について紹介します。
- (事例1)運転者の行動分析
- (事例2)実測値に基づくコンディションの把握
- (事例3)メンテナンス時期の把握
- (事例4)燃費と外部要素の関連性
- (事例5)保険料見積もりへの応用
(事例3)メンテナンス時期の把握
前回の事例2と類似しますが,今度はタイヤやブレーキパッドといった消耗品の消耗度合いを知るためにデータを活用していきます。
「メンテナンス時期」を見極めるための項目
項目 | 説明 |
---|---|
エンジン回転数 | 速度に対するエンジン回転数が,経年によって高くなってくる傾向がある |
積算距離 | 距離に応じて各種メンテナンスの喚起を促すことができる |
燃費 | 燃費の悪化はタイヤの消耗などが疑われる |
エンジン冷却水温(+外気温) | 夏は高めであるが、同じ外気温かつ同じ速度に対する水温が高めに推移すればメンテナンスが必要かもしれない |
ブレーキSW + 速度 | ブレーキ踏み始めから停止までの制動距離と初速との関係をプロットすることでブレーキパッドの摩耗状況を把握できる |
1. ブレーキの効き(制動距離)からの見極め
ブレーキのかけ始めの速度に対する制動距離(停止するまでの距離)を,初速度ごとに平均制動距離を見ることで,ブレーキの効きが悪くなっているかどうかを見極めることが可能です。
上の散布図では,初速度が大きければ制動距離も大きくなる(当たり前ですが)ことがわかります。また,初速度が大きいところでは,制動距離のばらつきが大きいこともわかります。特定のユーザーのブレーキパッドの消耗度合いを知るには,継続的にデータを収集する必要があります。そうしてこの散布図を月ごとに追っていくと制動距離が徐々に大きくなっていく変化を検知できることになります。
先ほどコンディション把握のために見ていたエンジン回転数,および冷却水温も月ごとの散布図で変化を検知できます。
2. エンジン回転数からの見極め
3. 冷却水温からの見極め
(事例4)燃費と外部要素の関連性
テレマティクスの中でも,船舶や重機の分野では,数%の燃費の改善によって何億円もの燃料費の削減が可能です。天気などの外部要素と組み合わせることで,燃費の改善となる要素を見極めていきます。
上の図は,船舶(1,2,3)の燃費と外部要素の散布図によって燃費と関係の深い要素を発見するための概念図です。
(事例5)保険料見積もりへの応用
テレマティクスとは関係の深い領域への応用として,保険料の見積もりがあげられます。
以下のテレマティクスデータは,保険料見積もりのために活用できる項目です。
項目 | 説明 |
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スロットル開度 | アクセルのスロットルの開度が大きければスピードを出していることに。また開度が急変すれば急加速していることがわかる |
シートベルト | 走行中にシートベルトをつけていない回数を調べられる。1回でもつけていなければ注意喚起が必要 |
車速 | スピードの分布を調べる。高速域での利用が多い場合は注意喚起が必要 |
ブレーキSW | ブレーキの多用は運転の荒さに関係する場合もある |
これらの項目をインプットとして「運転の荒さ」を数値化することで,保険料へ活用することが可能です。たとえば,スロットル開度(アクセルの踏み具合)の散布図を見ることで運転の荒いユーザーを検知できます。
上図は車のスピードに対するアクセル開度の散布図です。高速域でアクセルを踏みすぎている(プロットが右上に集中),アクセルの踏み幅が安定しない(縦にばらついている),といったことが明確になります。