信州大繊維学部(長野県上田市)の杉本渉教授(44)=材料化学=は4日までに、生物の体液の成分を利用して電気を蓄える新型の蓄電素子を開発した。効率的に素早く電力を蓄えられるほか、硫酸や可燃性の有機溶媒で内部を満たすバッテリーなど従来型の蓄電池に対し、素子を利用した装置を小型化すれば安全に体内に埋め込むことができる。心臓ペースメーカー用の蓄電池などを用途に想定しており、杉本教授は「血液や唾液、尿といった体液を利用して、人体を『蓄電池化』することも理論的には可能」としている。
蓄電素子は「バイオスーパーキャパシタ」と名付け、研究内容は米・電気化学会誌で近く発表予定。実用化に向けた企業との連携も模索する。
一般的な蓄電池には、自動車などに積むバッテリー(鉛蓄電池)があるが、内部に硫酸を満たしており、漏出を防ぐために強固で大きな容器が必要。近年普及が進んでいるリチウムイオン蓄電池も可燃性の有機溶媒を用いるという課題がある。
杉本教授は、硫酸や有機溶媒と置き換え可能な材料を研究。同教授が2003年に開発した素材「酸化ルテニウムナノシート」で覆ったチタン製の棒を電極にして実験したところ、酢酸(食酢の主成分)と酢酸塩を含む溶液との組み合わせで、硫酸を使った場合以上の蓄電性能があることを確認。さらに、牛の血清や、人間の体液と同じ塩分濃度の生理食塩水を使った実験でも蓄電できることが分かった。
杉本教授は、電極と食塩水などを組み合わせてパッケージ化して、心臓ペースメーカーや、近年普及が進んでいる体内植え込み型除細動器(ICD)向けの蓄電池として体内に埋め込んで活用することなどを想定。「万が一、液漏れが起きても人体には影響はないので、安全性が高まる」としている。