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2015

2020年へ ITが変える五輪と社会

1月1日 9時20分

2015年が幕を開けました。東京でオリンピック・パラリンピックが開かれる2020年まであと5年。
前回の東京オリンピックで新幹線が整備されるなど、技術革新が大きく進んだのと同じように、今、ICT=情報通信技術を通じて社会が大きく変わろうとしています。
2020年までに、どんな技術の導入が検討されているのか。
そのとき、社会はどんな姿になっているのか。
ネット報道部の松田透記者が5年後のオリンピックにお連れします。

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観戦チケットの電子化

きょうは2020年7月24日(金)。今夜いよいよ東京オリンピックが開幕する。午後8時に始まる開会式を見るため仕事を早く終わらせ、地下鉄とバスで「新国立競技場」に向かう。観戦チケットにはICチップが埋め込まれ、競技を見るだけでなく、都内の交通機関にそのまま乗車することもできる。飲食店での支払いにも利用でき、言語を登録しておけば、母国語での案内サービスを受けられるので、とても便利だ。

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電子チケット・・・オリンピックの観戦チケットとICカード乗車券などの機能を一体化させ、乗り換えを楽にしたり、紛失した際の再発行を簡単にしたりする。ロンドン五輪で導入され、券売機や入場ゲートに並ぶ列を減らすなど混雑緩和の効果もあった。東京オリンピックではさらに進化する見込み。

バスが時間どおりに

数年前までバスは時間どおりには来ない乗り物だったが、今は違う。バスの位置や運行に合わせて信号を変えて渋滞が起きないようにする「次世代交通システム」が導入されたからだ。いつもより道路は混雑しているものの、きょうも遅れはほとんどない。
さらに驚くのが進化した車の自動運転技術だ。運転手がいないのにバスが正確な位置に止まる。自動走行のバスは、車いすやベビーカー利用者が、段差なく歩道に降りることができるようにバス停にぴったりと横づけされた。

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次世代交通システム・・・バスを基盤にした輸送システムは、湾岸地区にある選手村とメインスタジアムとを結ぶ通称「マッカーサー道路」などでの導入を検討している。利用者が増えると予想されるときは電車のように数台が連なって走り、大量の人を会場まで輸送する。後続のバスは、自動運転システムが適切な車間距離を取り、運転手が必要なくなることを目指している。

ビッグデータで混雑解消

国立競技場に近いバス停を降りると、さすがに歩道は大勢の人であふれている。しかし、人の流れはスムーズだ。混雑を事前に予測し、競技場入り口への誘導が的確に行われているため、人が滞留している場所もない。周辺には、カメラや人の動きを感知する赤外線センサーなどが設置されている。集まったリアルタイムの膨大なデータが活用されているのだ。

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ビッグデータの活用・・・ビデオカメラやセンサーからの多様で膨大な情報をネットワークでつなぐ。人の流入や誘導をコントロールすることで混雑を緩和したり、事故を防いだりする。不審人物を自動的に探してテロを防いだり、感染症にかかっている人を見つけたりすることも可能で、企業が開発を進めている。

ゲリラ豪雨を予測

国立競技場に着いて開会式を待っていると、スマートフォンにメールが届いた。メールは「集中豪雨の可能性が高いため、開会式を遅らせる」という内容。その10分後、実際に周辺はどしゃ降りになった。東京では、このところ集中豪雨が増えているが、次世代のレーダー技術が登場して予測が可能になっている。

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次世代レーダー・・・大阪大学などが開発した「フェーズドアレイ気象レーダー」は、従来のパラボラ型のものと比べて約100倍の観測能力があり、積乱雲の急激な発達を瞬時に捉えることができる。これを使って豪雨の前に自治体や鉄道事業者に情報提供する構想がある。浸水のシミュレーションを基に会場の排水ポンプの稼働をコントロールするなどして浸水被害を防ぐこともできるという。

新幹線や高速道路、人工衛星を使った放送の中継技術。56年前の東京オリンピックでは、こうした最新技術が、世界を驚かせると同時に、社会に定着して、私たちの生活を便利にしました。今回の東京オリンピックでは、ICTの進化がその役目を期待されています。

さらに、オリンピックをより楽しいものにするための技術開発も進んでいます。

「見る」から「体験」へ

開会式も終わって競技が始まった。なかでも観戦を楽しみにしているのが陸上競技だ。しかし、観戦に行く場所は競技場ではなく、渋谷のスクランブル交差点。選手たちの立体映像が街の中で映し出されることになっているからだ。
棒高跳びの世界記録は6メートル超。街の中で映し出すことで、ビルの2階を超える高さを実感することができる。100メートル走では、金メダルを取った選手と並んで同時に走ることもできる。鑑賞するというより「体験」することができる技術だ。

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立体映像・・・去年の科学技術白書によると、映像が立体的に浮かんで見える「ホログラム」技術を活用すれば、臨場感あるこうした映像を映し出すことができるという。立体的なものにCG映像を映し出す「プロジェクションマッピング」の活用も検討している。

“ソーシャル五輪”本格化

日本の選手がメダルを取ったときは、SNSを使った選手とのコミュニケーションが楽しみだ。ツイッターで感想を尋ねると、公式のインタビューでは話さなかったようなことも聞くことができる。自分の質問に答えてくれたり、みんなと喜びを共有できたりするのが楽しい。

SNS・・・ロンドンオリンピックは初の“ソーシャル五輪”と呼ばれた。SNSを通じた選手へのインタビューなど観客の対話も多く行われた。東京では、こうした動きが本格化すると見られる。

ことばの壁を超え「おもてなし」

日本を訪れる外国人は増え続けている。さらに、オリンピックが開幕してからは、電車の中などでさまざまな国の言語が飛び交うのは日常の光景になっている。きょうは、地下鉄の構内で迷っていた様子のフランス人に話しかけた。フランス語はほとんど知らないが、スマホのアプリを使えば簡単だ。日本語で話しかけると自動的に通訳してくれて、喜んでもらえた。このシステムが搭載されたロボットも会場近くに設置され、外国人の案内に一役買っている。ことばの壁がなくなれば、日本を好きになる外国人がもっと増えるに違いない。

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自動翻訳・・・スマホの自動翻訳アプリの基盤となる技術は「情報通信研究機構」が中心に開発を進めている。スマホに向かって話しかけると自動的に音声とテキストに翻訳してくれるアプリはすでに実用化されていて、ウエアラブル端末に導入してより自然に会話できるようになる見込み。医療分野のことばにも対応して外国人が安心して医療を受けられるようにする。さらに、英語ならTOEIC700点など、主な10の言語で高いレベルを目指す。


実現できるか夢の技術

ここまで見てきたのは、政府と東京都が設置した有識者会議などで具体的に取り上げられている技術です。
この有識者会議では、東京オリンピック・パラリンピックでの新技術の導入に向け、スケジュールを盛り込んだ実施計画書を早ければ今月中にもまとめることにしています。
今の段階では、今後2年程度で研究開発を終わらせ、そのあと1年間で実証実験、開催2年前の2018年にはシステムを完成させる計画です。
実施計画書ができあがると、各省庁や東京都は、民間企業に協力を呼びかけて技術革新を一気に進めることになります。
内閣府の田中宏政策統括官(科学技術担当)付参事官は「今回の取り組みは単なるショーケースではなく、社会に実装するためのものです。前回の東京オリンピックは先進国に追いつくという意味がありましたが、今度は日本の成熟した社会を世界にアピールするものなると思います」と話しています。

松田透記者

取材後記(ネット報道部・松田透記者)
初めは「SFの世界?」と思った技術も、取材して見るとICTの急速な進歩で「実現はそんなに遠くない」と感じるようになりました。むしろ、このチャンスを生かすことが大事なのではないでしょうか。オリンピックという1つの目標に向かうことで、ふだんはライバル関係にある企業どうしが協力するという雰囲気もできてきたといいます。開発者の1人は「アメリカ企業に先を越されたIT分野で再び日本がトップに立つチャンスだ」と話していました。そのことばに期待しながら、5年後を楽しみにしたいと思います。


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