2014年の七夕、7月7日に放送開始した「ハナヤマタ」。神奈川県鎌倉市由比ヶ浜周辺を舞台に、「よさこい」に青春を捧げる少女たちを描いたアニメとFIATがコラボレーションを実現。メインキャラクター5名の可憐な世界観を『FIAT 500』で再現したラッピングカー、『ハナヤマタ500』の登場や声優陣とのイベントで昨夏の注目を集めた。
このコラボレーションキャンペーン最大のサプライズは、『FIAT 500 Twinair POP』をベースに仕上げた『ハナヤマタ・モデル』のリリースだ。世界にただ1台のスペシャルエディションは、メインキャラクター5名、なる・ハナ・ヤヤ・タミ・マチそれぞれのイメージを表現したデザインが選べるという特典付き。想像をはるかに超えるエントリーが寄せられ、2014年9月の申し込み締め切りをもってついに当選者が決定。デザインの確定を受け、『ハナヤマタ・モデル』が生まれる現場に向かった。
『ハナヤマタ・モデル』の製作を担当したのは、東京都墨田区のリディアワークス。各種ディスプレイの製作・施工を行うこの会社は、商業車のボディに文字や絵を描く仕事で創業しただけに、クルマに関する知識や経験が豊富だ。加えて、東京・青山にあるFIAT CAFFEのインテリアや、世界各地で開催されるアートイベントでの出張施工など、繊細な技術を要する仕事でも成果を上げてきた。
さて、リディアワークスの工房に運び込まれた『FIAT 500』。ベースモデルからの変更点その1は、ボディをほぼ1周する鮮やかな和柄テープだ。「ハナヤマタ」のイメージを生かし、あでやかな反物を織るようにFIATが丹念にデザインした。前後のサイドウィンドウ下部にテープをレイアウトしたのは、タイヤが跳ね上げる泥等で汚れないようにとの配慮だ。その2は、大小の花模様が散りばめられたインパネ。その3は、同じく花柄をプリントしたツイル素材のヘッドレストカバー。これは全座席4つを用意した。個所を上げれば3点に過ぎないが、いずれも世界にひとつのワンオフだけに、その作業には大きな集中力が求められた。
当選者が選んだのは、紫色が印象的なハナバージョン。ボディとインパネの花柄は、データ出力によるカッティングシートで製作。経験値が必要なのはその貼り込みだ。特にボディは、Aピラーの根元から前後のウインドウ、リアハッチを巡って逆サイドのAピラーまで達する細長いデザインだけに、その途中で花柄イメージが途絶えないよう貼るのが肝心だ。カッティングシートのデータ時点でドアやリアハッチの切れ込みは計算しておくが、いざ作業となると神経質な現場合わせ以外に手はないという。
インパネ工程ではパネルをすべて外し、各パーツをカッティングシートで包むのだが、至る個所に複雑な曲面があり、シワひとつなく仕上げるのは見ていても困難であることが容易にうかがえた。極めつけはパネル裏側の処理だ。折り返した余分なシートの幅が全域に渡ってほぼ均一にそろえてある。パネルを装着してしまえば見えない場所だが、そこまで丁寧に仕上げてこそのスペシャルエディションなのだそうだ。
延べ4人で5時間かけて『ハナヤマタ・モデル』が完成。リディアワークス代表の小林史人さんは言う。「作業的にはラッピングですが、この特別な1台のために私たち以外にも多くの人の手がかかっていますから、大事に乗っていただけたらうれしいです。いい仕上がりになりましたね。当選者の方がうらやましいです」
完成した『ハナヤマタ・モデル』を購入者に手渡す日がやってきた。見事当選したのは秋田県のしょーさん。「ハナヤマタ」は原作からのファンで、テレビアニメの放送を期に行われたオンライン・キャンペーンを見て今回の企画を知ったそうだ。どのキャラクターのデザインを選ぶかはかなり悩んだという。
納車が行われたのはフィアット秋田。2014年10月にオープンした、秋田県初の総合ルームだ。取り扱いブランドはFIAT、Jeep®、クライスラー、アルファロメオ。モデル別一番人気は年齢性別問わず『FIAT 500』だという。
さて、しょーさん。フィアット秋田で実物の『ハナヤマタ・モデル』を目の当たりにした第一印象は? 「まず、ハナヤマタのイメージと、モチーフとなった『FIAT 500』がよく似合いますね。ハナバージョンは落ち着いた感じになるかなと想像していたんですが、かなり目立ちそうでうれしいです。自分で運転しても誰かに見られても、飽きのこない楽しいクルマです」
しょーさんはすでに他のクルマで毎日通勤しているそうだが、今後は『ハナヤマタ・モデル』に乗り換える機会が多くなると言った。
「FIATの公式モデルとしてこのクルマが発表されたことがうれしかったし、それにここまで綺麗に仕上がった1台はできるだけ多くの人に見てもらったほうがいいでしょう? それは僕自身の望みでもありますね」
そして、この『ハナヤマタ・モデル』に乗って、通勤以外でどこにドライブしたいかたずねてみた。 「県内では角館のロケーションが似合う気がします。春になったら関東方面へ。ハナヤマタの舞台になった鎌倉の聖地巡礼がしたいですね。シートの座り心地もよさそうだから、長時間の運転でも疲れにくそうです。暖かくなるのが今から待ち遠しい」
また、しょーさんには「ハナヤマタ声優陣のサイン入りポスターもプレゼントされた。ついに街を走り出す世界にただ1台の『ハナヤマタ・モデル』。当選者のしょーさんには及ばないかもしれないが、その鮮やかで美しい花柄の軌跡に出会えるのもかなりの好運と言えるだろう。