ハーバードビジネススクール助教授。専門はリーダーシップと組織行動。MBAプログラムにて1年目の必修科目である「リーダーシップと組織行動」、PhDプログラムにて「フィールド調査の技術」を教えている。組織におけるリーダーシップ、コラボレーション、チームワーク、デザイン・シンキング、組織学習を専門に研究。1996年米アーモスト大学在学時、交換留学生として同志社大学に留学。2004年、ボストンコンサルティンググループ東京オフィスに赴任し、プロジェクトリーダーを務める。最新の寄稿論文に“The Transparency Trap”(Harvard Business Review, October 2014) がある。
ハーバードビジネススクールの教授陣の中でも指折りの知日派である。同志社大学で学び、ボストンコンサルティンググループ東京オフィスで働いたイーサン・バーンスタイン教授は、組織行動の観点から数多くの日本企業を研究してきた。2014年3月には、他の教授陣とともに来日。日本のベンチャー企業から大企業まで訪問し、現在、その調査結果をもとに教材も執筆中だ。
今、ハーバードビジネススクールの助教授として、日本企業をどう見ているのか。そしてリーダーシップとは何か。同じ元BCGコンサルタントとして、忌憚ない意見を伺った。
(2014年6月27日 ハーバードビジネススクールにてインタビュー)
日本企業は官僚組織から脱却せよ
佐藤:ハーバードに日本に縁の深い教授がいてくれるのはうれしいことです。
バーンスタイン:日本は世界有数の経済大国ですよね。過去50年を振り返ってみても、日本は様々な分野で世界の先頭を走ってきました。今、日本は世界からもと学ぶべきだという議論があるのは知っていますが、日本は世界に教える立場にあるということも忘れてはなりません。私は大学教授になる道を選んだのでハーバードにいますが、ビジネスの世界にいたら、今も日本で働いていたと思いますね。今後も、日本企業や日本の経営者について研究をすすめていきたいと思っています。
佐藤:日本企業をどういう視点から研究しようと思っていますか?
バーンスタイン:私は組織行動と人間行動を中心に研究していますから、日本の「組織」に関心をもっています。私たちは組織という境界の中で働いていますよね。その組織が働いている人を生産的にすることもあれば、非生産的にすることもある。生産的な組織では、個人よりも組織のほうが大きな力を発揮できますが、非生産的な組織では、改善したり、イノベーションをおこしたり、学習したり、実践したいと思う気持ちを阻害します。
それでは、どういう条件が整えば、組織は生産的になるのか。私は組織の効率性を3つの側面から見ています。生産性(期待される成果をあげているか)、個人の学習能力(仕事の能力が向上しているか)、そして、組織の学習能力(組織としての能力は向上しているか)。私の研究が日本企業の生産性を高めるのに貢献できればうれしいですね。
佐藤:ハーバードではインドや中国にくらべて日本の事例を取り上げる機会が減ってきたと聞いています。日本人留学生にインタビューすると、「日本のプレゼンスは低下している」と口をそろえていうのです。日本が再び世界の発展のためにリーダーシップをとるには、どの分野に注力すればいいと思いますか?
バーンスタイン:これは私が日本についてインタビューされるといつも強調していることなのですが、海外から日本を見ている人たちは、日本を過大評価するか、過小評価するか、どちらかに偏って発言する傾向にあります。そこにかなり誤解が生じていることは確かですね。
過去20年間、日本経済はずっと停滞していると言われていますが、他の国と比べても、それほど悪い状況ではないと思います。そうはいうものの、政府の失策に加え、度重なる天災にもみまわれ、再生が必要であることは事実です。問題は日本企業が再生のために何ができるかという点ですね。