米価の下落でコメ農家が騒然となっている。「もう無理だ」。そう言ってコメをつくるのをあきらめた農家がいる。値崩れはコメ余りが原因だから、つくり手が減れば需給は改善する。だが、あまりの急落は、将来を担うべき経営者まで追いつめる。かれらがどんな「武器」を持てば、難局を乗り切れるかが今回のテーマだ。
米価の下落を端的に示すのが、全国農業協同組合連合会(全農)が農家から新米を買い取るさいの目安となる概算金だ。たとえば、栃木県で今年とれたコシヒカリの60キロ当たりの概算金は、去年より3800円減って8000円になった。おなじようなことが各地で起きている。
しかも、全農の概算金は農協を通さず、卸会社などに直接コメを売っている農家の取引価格にも影響する。売り上げが突然3割も減れば、ふつうの企業なら経営がゆらぐ。コメ農家はこの危機をどうやってしのぐのか。
大規模経営にも危機感
すでに各地に100ヘクタールを超す大規模経営が誕生しているが、その多くは田んぼが分散していて必ずしも効率的ではない。そこで、比較的まとまった場所で大規模化に成功した経営者に最近の状況を聞いてみた。
「できるだけ手間をかけずにコメをつくってきた。あとはどの経費を減らせばいいのか」。千葉県柏市で200ヘクタール弱の農地を耕す染谷茂はそう話す。何度も取材してきたが、こんな厳しい表情をみせたのは初めてだ。
染谷の最大の強みは、200ヘクタールのうち、108ヘクタールが地続きでつながっていることだ。ジャングルのようになっていた放棄地を市の要請で開墾し、日本では珍しい効率的な農場をつくりあげた。その染谷が「このまま下がればやっていけなくなる」と危機感をつのらせる。
もう一人は、茨城県龍ケ崎市の横田修一だ。耕地面積は約110ヘクタール。まわりにめぼしい担い手がいないため、引退する高齢農家から年々かれのもとに農地が集まってくる。かれに米価下落の影響を聞くと、「目を疑いました。もう笑っちゃうしかない」と答えた。
かれが店頭で目にした値段は、5キロの新米でなんと1000円以下。かれのコメはスーパーで売る値段を決める権限を自分で持っているため、値段を変えなかった。だが「ほかがここまで下がると、こちらも少し値下げする必要があるかもしれない」と話す。