Updated: Tokyo  2014/11/04 17:24  |  New York  2014/11/04 03:24  |  London  2014/11/04 08:24
 

GPIFと黒田日銀はアベノミクスと投資家の味方、株高円安を演出 (3

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  11月4日(ブルームバーグ):世界最大級の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF )と黒田東彦総裁が率いる日本銀行を頼りにしているのは、景気のテコ入れに苦心する安倍晋三首相だけではないようだ。市場関係者からは、国内外の株式市場で心強い援軍となり、株高・円安を演出しているとの声が聞かれる。

黒田総裁は先週末、国債保有残高の増加ペースを年30兆円増やして80兆円とし、指数連動型上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J-REIT)の積み増し額を3倍にする追加金融緩和を表明した。GPIFの三谷隆博理事長はその数時間後、全資産の4分の1弱だった国内外の株式を2倍超の5割に高める資産構成見直しを発表した。

JPモルガン・アセット・マネジメントの重見吉徳グローバル・マーケット・ストラテジストは、日銀の追加緩和でJPX日経400株価指数の採用に着目。自己資本利益率(ROE)が高い企業が選ばれやすく、日本企業全体の底上げにつながると読む。GPIFも株式運用の拡大で「同様の措置を取る可能性がある」との見方を示した。

TOPIX は先月31日の上昇率が4.3%と昨年6月10日以来の大きさを記録。9月25日に付けた08年6月以来の高値1346.43に迫った。米シカゴ先物市場(CME)の日経平均先物 (円建て)は一時1240円上昇し、1万7000円を突破した。日本が文化の日で休日の週明け3日にはさらに上昇した。円相場は急落。3日には対ドルで114円22銭と2007年12月以来の安値を記録。日銀とGPIFの発表前から一時5円近く円安・ドル高が進んだ。  

三菱東京UFJ銀行の関戸孝洋ジャパン・ストラテジストは、黒田総裁はイエレンFRB議長が量的緩和を終了させた直後に逆方向に動き「円安で追加緩和を最大限に演出した」と指摘。「アベノミクスは疑念を振り払い、息を吹き返した」と話した。

安倍首相の経済政策「アベノミクス」は大胆な金融緩和と機動的な財政政策、民間投資を促す成長戦略からなる。安倍首相はGPIFの運用見直しが株価対策ではないと断りつつ、結果として日本経済の成長にも貢献すると考えている。

同日発表「全くの偶然」

SMBC日興キャピタル・マーケッツのストラテジスト、ジョナサン・アラム氏(ロンドン在勤)は、デフレとの決別を目指す「黒田総裁の狙いの一つが円安だとすると、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が量的緩和に終止符を打った直後に追加緩和したのは極めて巧みだ」と評価。GPIFの日本株・外貨建て資産拡大も含め「何とも分かりやすいタイミングだ」と語った。

黒田総裁は追加緩和発表後の記者会見で「GPIFの投資政策がどう変わるかと金融政策は直接的な関係は全くない」と発言。GPIFの三谷理事長も新たな資産構成の発表会見で、日銀の追加緩和には「本当に驚いた」と述べ、発表が同日になったのは全くの偶然だと説明した。

GPIFなど公的・準公的資金の運用・リスク管理を見直す政府の有識者会議で座長を務めた伊藤隆敏教授は1日までのインタビューで、GPIFと日銀は「美しき調和」を果たしたと評価。両者は国債市場の安定をめぐって「以心伝心の間柄だ。意図するとせざるとにかかわらず、見事に示し合せた政策対応だった」と述べ、「私はこれをハロウィーンの奇跡と呼びたい」と続けた。

外株の大幅引き上げは予想外

厚生年金と国民年金の運用資産127.3兆円を抱えるGPIFは先月31日、資産構成の見直しを発表。国内債の目標値を従来の60%から35%へと大幅に下げる一方、内外の株式は12%ずつから2倍超の25%ずつに、外国債券も11%から15%へ引き上げた。5%だった短期資産は廃止し、各資産に適宜振り分ける。オルタナティブ(代替)投資は案件の特性に応じて各資産に区分。全体の5%を上限とした。

目標値からの乖離(かいり)許容幅も変えた。国内債は従来の上下8%ずつから同10%ずつに、国内株も同6%ずつから同9%ずつに拡大。外債は同5%ずつから4%ずつに縮小し、外国株式は同5%ずつから8%ずつに広げた。大規模な資産入れ替えが市場に悪影響を及ぼさないよう、移行期間や期限は設けず、乖離許容幅からの超過を容認する。

ブルームバーグ・ニュースが先月下旬に運用担当者やアナリストら12人に事前予想を聞いたところ、国内債の目標値は40%に下げ、国内株は24%に引き上げるとの回答が中心だった。外債は13.5%に、外株も15%に増やすと予想した。実際の見直しでは、4資産の中で外株が市場予想を10ポイント上回った。短期資産は5%で、オルタナ投資資産の新設は4人にとどまった。

円安大幅修正

JPモルガン・チェース銀行の佐々木融債券為替調査部長と棚瀬順哉チーフFXストラテジストは日銀とGPIFの発表後に当たる米国時間31日、従来109円だった年末予測値を115円と円安・ドル高方向に修正した。ブルームバーグが市場関係者から集計した予想の中央値では、今年末に110円が見込まれている。足元ではこれより4円超も円安に振れる場面があった。

GPIFを所管する塩崎恭久厚生労働相は先月31日、GPIFの「中期目標」を変更。年金財政の安定に貢献するため、①名目賃金上昇率を1.7ポイント上回る運用利回りを最低限のリスクで確保②新たな資産構成はフォワードルッキングなリスク分析を踏まえて長期的な観点から設定③名目賃金上昇率からの下振れリスクが全額を国内債で運用した場合を超えない-ことを定めた。

資産構成の見直しに当たり、GPIFは経済・金融環境が2023年度までは大きく変わるという年金財政検証の前提を踏まえ、今後10年間の金利上昇シナリオを想定。全額を国内債で運用すると約25年後に所定の積立金を確保するのはほぼ不可能だが、財政検証の経済中位ケースでは予定積立金を確保できないリスクの確率は約40%、市場が織り込む将来の金利水準に基づくと約25%にとどまると推計した。

リスク資産26.3兆円

こうした推計結果を踏まえ、GPIFは長期デフレを背景とした国内債中心の構成から、内外の株式と債券を半分ずつ、または国内資産を6割と外貨建て資産を4割という分散型に変えた。三谷理事長は発表会見で、資産構成の見直しは年金財政検証の結果と、デフレから緩やかなインフレへの移行が見えてきたためだと説明。将来の金利上昇による国内債の評価損リスクが最大の焦点だったと語った。

GPIFの保有比率の実勢は6月末時点で、国内債が53.36%、国内株が17.26%、外債が11.06%、外株が15.98%だった。新たな目標値に移行するには国内債の保有残高を約23.4兆円圧縮する一方、国内株は約9.8兆円、外債は約5兆円、外株は約11.5兆円買い増す必要がある。3つのリスク資産で合計が約26.3兆円に上る計算だ。

4月に消費税率が5%から8%に引き上げられた後、日本経済は景気の低迷が長引き、景気後退局面入りした可能性が浮上。国際通貨基金(IMF)は先月、日本の成長率予想を14年は0.9%と7月時点より0.7ポイント下げ、消費増税第2弾が予定される15年は1.1%から0.8%に下方修正した。安倍首相は来年10月に予定通り10%へ再増税するかどうかについて、年末にかけて慎重に検討する方針だ。

異次元緩和

全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI )の上昇率は9月に前年比3.0%。日銀が試算した消費増税の影響を除くと1.0%と昨年10月以来の低い伸びだった。日銀は先月31日に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、15年度のコアCPI予測値を1.7%と7月時点の見通しから0.2ポイント下方修正した。ただ、16年度は2.1%で据え置いた。

日銀は昨年4月から、2%の物価目標を2年程度で達成するため、マネタリーベース を積み増す「量的・質的金融緩和」を導入している。先週末の金融政策決定会合では、増加ペースを年間60兆-70兆円から同80兆円に高めるなどといった追加緩和に踏み切った。従来50兆円だった長期国債の残高増を約80兆円に拡大。短期国債や貸出支援基金などは現状維持にとどめた。

指数連動型上場投資信託(ETF)の保有残高は年間約3兆円、不動産投資信託(J-REIT)は同約900億円のペースで増やす。ともに従来の3倍に拡大した。黒田総裁は記者会見で、追加緩和は「デフレマインドの転換が遅延するリスク」に備えた措置だと説明。「相当思い切った拡大なので、それなりに効果がある」と述べ、2年程度で2%の物価目標の達成を目指す方針に全く変わりはないと語った。

塩崎厚労相は9月の入閣前はGPIFなどの運用見直しとガバナンス改革を訴えた政府の有識者会議を自民党側で支え、今春には議員立法にも動いた改革推進派。損失リスクを抑えるには分散投資が、政治や所管官庁からの独立性を確保するためには組織改革が必要だと訴えている。

GPIFは今回、ガバナンス体制の強化も発表した。運用委員会の下に「ガバナンス会議」を設置。コンプライアンス(法令順守)の責任者も任命した。厚生労働省の社会保障審議会年金部会に設置されたGPIFのガバナンス体制を検討する作業班は、きょう初会合を開催。座長代理の伊藤教授に加え、GPIF運用委員長代理の堀江貞之野村総合研究所上席研究員とJPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストも政府の有識者会議のメンバーだった。

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 野沢茂樹 snozawa1@bloomberg.net;東京 北中杏奈 akitanaka@bloomberg.net;東京 野原良明 ynohara1@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:Garfield Reynolds greynolds1@bloomberg.net崎浜秀磨, 山中英典,青木勝

更新日時: 2014/11/04 16:31 JST

 
 
 
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