感染疑いの男性をどう確認?10月28日 18時49分
西アフリカのリベリアに滞在したあと、27日、羽田空港に到着し発熱の症状が確認された男性について、厚生労働省が詳しく検査したところエボラウイルスは検出されませんでした。
男性がみずからリベリアに滞在していたと申告したことが迅速な検査につながりました。
男性が羽田空港に到着したのは27日の午後4時前。
西アフリカのリベリアに今月18日まで2か月間滞在したあとベルギーやイギリスを経由していました。
男性は体の不調を訴えておらず、サーモグラフィーでも発熱は検知されませんでしたが、みずから検疫所にリベリアに滞在していたと申告したということです。
念のため検疫所内の個室に移動し体温を測ったところ、男性には37度8分の熱があり、検疫官の聞き取り調査に対してはエボラ出血熱の患者などとは接触していないと説明したということです。
この時点で医療機関に搬送する基準の38度の熱には達していませんでしたが、それに近い熱が確認されたことに加え、リベリアでの滞在歴があったため厚生労働省は男性を東京・新宿区の国立国際医療研究センターに搬送し、詳しい検査を行いました。
国際便が到着する国内30の空港では今月24日から、すべての入国者を対象にエボラ出血熱の発生国に過去3週間以内に滞在していないか、検疫と入国審査で二重に確認するなど対策を強化していました。
こうしたなか、男性が滞在歴をみずから申告したことが発熱の症状の確認や迅速な検査につながりました。
その後、男性から採取された血液は国立感染症研究所に運ばれエボラウイルスの遺伝子が含まれているか詳しい検査を受けました。
結果が出たのは男性が空港に到着してからおよそ13時間後。
エボラウイルスは検出されませんでした。
厚生労働省は症状が出てから日が浅いためウイルスが検出されなかった可能性もあるとして、念のため男性を30日まで国際医療研究センターにとどめて健康状態に変化がないか確認を続けることにしています。
厚生労働省によりますと現在、男性は平熱に戻り、容体は落ち着いていて、30日の最終的な検査で異常がなければ退院することになっています。
万が一、感染が確認されていた場合、厚生労働省は男性と同じ便に乗っていたすべての乗客などを対象に男性と濃厚に接触していないかや健康状態に異常が無いか調査を行うことにしていました。
厚生労働省は引き続き水際での対策を続ける一方で、今後、国内で感染が確認された場合に備えて、医療機関の受け入れ態勢を整備するなど、対策を強化することにしています。
指定医療機関の感染対策は
国立国際医療研究センターは、エボラ出血熱をはじめ危険性が極めて高い感染症を治療する「特定感染症指定医療機関」です。
患者が入院するのはウイルスが漏れ出さないように外よりも気圧を低くした専用の病室です。
治療に当たる医師や看護師も二次感染を防ぐためガウンや手袋、それに保護メガネやマスクを装着して対応に当たります。
また、これらの身に着け方に問題がないかや取り外す際の手順を間違って感染することなどがないよう別のスタッフがチェックをする態勢も取られています。
病室には患者が使うためのトイレやシャワーが備え付けられ、使用された水は高温で処理するなどして感染のおそれがない状態にして排出されます。
また、患者の処置に使った器具などを高温高圧で滅菌する「オートクレーブ」と呼ばれる機器も病室の中に備えられていて、ウイルスが付着したものを外に出さないようになっています。
患者は検査でウイルスを持っていないことが確認されるまでこの病室に入院し、家族などが病室に入って面会することもできません。
このため病室の天井にはカメラが設置されていて、外とテレビ電話で話せるようになっています。
また、カメラは患者の状態や点滴の進み具合を確認することにも使われ、医師や看護師が病室に出入りする回数を極力少なくできるようにもなっています。
警察も連携
今回、警視庁は、患者を乗せた民間の救急車を先導するためパトカーを出動させました。
エボラ出血熱への対応については、警察庁が感染者や検体の搬送を支援するよう、今月24日に各都道府県の警察本部に通知していました。
今回、東京検疫所からの協力要請を受けた警視庁は、この通知に沿う形でパトカーを出動させ、患者を乗せた民間の救急車を、東京検疫所から国立国際医療研究センターまで先導したほか、男性から採取した血液などを積んだ車を先導して東京・武蔵村山の国立感染症研究所に向かったということです。
パトカーに乗った警察官2人のうち、運転席の警察官は運転に支障があるため制服姿でしたが、助手席の警察官は防護服を着用したということです。
専門家「地方でもしっかり準備を」
エボラ出血熱など感染症の問題に詳しい東北大学の賀来満夫教授は「エボラ出血熱のような深刻な病気では、リスクのある人を早く見つけ出し、念のための対応をしていくことが重要だ。今回は本人の自己申告を基に発熱が確認され検査を行ったというケースで、検疫での対応がうまくいった事例だと思う。結果的には陰性だったが、今後、本当に感染した人が出てきた場合の対応をスムーズに行うための確認にもなった」と評価しています。
一方で「今回は羽田空港で疑い患者が出たため、入院先の指定医療機関や検査を行う国立感染症研究所が近くにあり、うまくいったと思うが、今後、地方で疑い患者が出ると検査用の血液を東京まで運ばなければならなかったり、指定医療機関が県内になかったりして対応に手間取ることも考えられる。各地域でしっかり準備をしておくことが必要だ」と指摘しています。