賠償返還要求:「区域外進学」と明記…東電、基準公表せず

毎日新聞 2014年10月28日 07時10分(最終更新 10月28日 10時58分)

進学者に対する精神的賠償の返還基準などが記された東京電力作成の文書
進学者に対する精神的賠償の返還基準などが記された東京電力作成の文書

 東京電力が福島第1原発事故(2011年3月)後に福島県外へ進学した女性に対し「進学先は事故前に決まっていた」などとして支払い済みの賠償金の一部返還を求めている問題で、東電が同様の被災者を返還請求の対象者として判断する基準を設置していることが、毎日新聞が入手した東電の文書で分かった。東電は基準を公にしておらず、不透明な運用に批判が出そうだ。【栗田慎一】

 文書によると「避難対象区域外の大学に進学した」場合を返還請求の対象と規定。避難区域の自宅からの転居先の家主と「賃貸借契約書の契約が事故以前に交わされた」場合、「事故前から転居を決めていた」とし、入居した時点で「避難終了」とみなしている。東電は基準をもとに被災者からの賠償申請などの際に聞き取りを行い、返還請求の対象者を特定するとみられる。

 しかし、福島県教委などによると、月額10万円の精神的賠償の対象となった旧警戒区域や旧計画的避難区域などには大学や短大はない。このため、東電基準では、県内外を問わず大学・短大への進学者全員が返還請求の調査対象となる。東電は対象者数を明らかにしていないが、県教委によると、11年春に卒業した高校生は避難区域内に約1000人いた。

 約6年分の精神的賠償など計約900万円の返還を求められている帰還困難区域の21歳女性の場合、高校3年だった10年12月に関東の看護短大に推薦入試で合格。11年1月に短大近くのアパートの賃貸借契約を結び、同4月初旬に入居した。東電は今年6月、女性の家族に賃貸借契約書を東電東京本店に送るよう指示。9月に「転居で避難は終わっていた」として返還額を記した文書を送った。

 東電福島復興本社広報部は「個々の事情をうかがった上で判断する」としながらも、基準については「明らかにできない」としている。

 一方、原発事故の賠償請求の実務に携わる笹山尚人弁護士は「賠償には公的資金が投入されており、公正な基準と透明性ある運用が不可欠だ。東電が返還請求するならば、まず基準を公にする必要がある」と指摘する。

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