日本発・世界のヒット商品:タイに根付く初の缶コーヒー

毎日新聞 2014年10月19日 12時35分(最終更新 10月19日 13時25分)

「Birdy」の「濃いコーヒー味」=味の素提供
「Birdy」の「濃いコーヒー味」=味の素提供

 ◇爽快感と強い甘み融合

 味の素の子会社「タイ味の素販売」がタイで販売する缶コーヒー「Birdy(バーディ)」は、「タイのブランド」と勘違いされるほど地元に根付いている。1993年発売で、タイでは初めての缶コーヒーだった。

 味の素は70年代にタイに進出し、うまみ調味料や即席麺の製造、販売などで事業を拡大。現地ではなじみのなかった缶コーヒーを販売することになったきっかけは、営業マンがスーパーで「冷蔵庫の空きスペースに置ける商品を開発できないか」と思い立ったことだった。

 タイにはアイスコーヒーを飲む習慣もなかったが、逆に「新たな市場を開拓できるのでは」と、商品化が決まったという。

 販売を始めると、「手間がかからず、すぐに冷たいコーヒーを飲める」とたちまち人気に。想定した客層は当初、「オフィスでリフレッシュするホワイトカラー」だったが、「運転中の眠気ざまし」としてトラックの長距離運転手らからの支持を集めた。このため、道路沿いのコンビニやガソリンスタンドにも販路を拡大。180ミリリットル缶で13タイバーツ(約40円)と、他の清涼飲料に比べて割高だったものの、2013年度には220億円を売り上げるまでに成長した。

 「濃いミルク味」「練乳のようなミルク味」など5種類が店頭に並ぶ。日本の缶コーヒーよりも甘く、「ブラック」でさえ、ミルクが入っていないだけで甘い。

 海外食品部長の黒崎正義さんは「現地の好みに合わせた爽快感と甘みが受け入れられた」と語る。

 08年には専用工場を約47億円かけて新設し、タイ産の生豆を使って焙煎(ばいせん)・抽出から調合、缶への充填(じゅうてん)まで一貫生産する体制に切り替えた。それまでは現地の飲料工場に委託し、原料はインスタントコーヒーだった。昨年7月には約45億円を投じた第2工場が稼働し、生産能力は年7億5000万本に倍増、着実に売り上げを伸ばしている。【種市房子】

 ◇130超の国・地域に進出

 味の素は創業翌年の1910年、台湾にうまみ調味料の「味の素」を輸出。現在は130超の国・地域に進出し、売上高9913億円(2014年3月期)のうち半分が海外だ。地域の味覚に合わせた調味料や即席麺のほか、飼料用アミノ酸や医薬品などを手掛ける。収益の中心は東南アジアとブラジル。今後、アフリカや中東ではうまみ調味料など、欧米では冷凍食品事業などの拡大を狙う。

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