安倍晋三総理が民間の賃金体系の見直しを唱え、労働生産性に見合ったものに変えていくように提言している。安倍総理は賃金体系の見直しは女性活用のためとも主張しているが、こうした発言の背景には「左派」への牽制が見て取れる。
給与体系は個別企業の労使間の契約であり、官などの第三者が入る筋合いのものではない。政治が賃金体系に口をはさむという行為は、連合の支援を受けている民主党であればわからなくもないが、自民党がこのように労使に割って入ろうとしているのは民主党への当てつけなのだろう。
そういえば、今春の第85回メーデー中央大会に、安倍総理は出席していた。メーデーとは、ヨーロッパを中心として世界各地に行われる「労働者」の祭典である。そこに、労働者のための民主党のライバル政党党首が参加したわけだ。安倍総理というと右派政治家と思われているが、それを意識してなのか、雇用政策で左派のお株を奪っている。
欧州では、社民党や共産党などの左派政党が雇用のための金融政策を主張、右派政党も金融政策によって雇用を確保するという政策効果を否定できないため、これを採用してきた歴史がある。ところが日本では、民主党が政権を取って雇用重視を主張しながら、金融政策を活用できず、しかも円高・デフレを招いて雇用の確保ができなかった。それを安倍自民党に見透かされて、民主党の先手を打つ形でインフレ目標を言いだし、政権交代が実現した。
その結果、就業者数の増加は著しく、民主党は形無しとなった。その勢いで、安倍総理は政治的なポジション取りで労働者の給与にも口を出しているというのが現在の構図である。
そもそも、政治的には、「先に言ったほうが勝ち」である。というのも、賃金体系というのは最後は民間における労使の契約なので、政府が介入することは出来ない。そこで、先に一般論で無難なことを言った者が政治的に勝ちといえる。しかも、民間の場合、男女間で賃金格差があるのは否定できない。生産性に見合った給与というのも誰も否定できない基準で、男女格差を解消と言えば、すくなくとも政治的な議論で負けることはない。
背景にあるのは、左派知識人の体たらくである。左派知識人は、反成長・反金融政策で凝り固まっている。戦後の「へたれ左翼」がいまだに幅をきかせて、まともな議論をやってこなかったツケだ。「へたれ左翼」は、マスコミや出版界で知識人とされているが、世界の流れに取り残されている。
安倍政権の金融緩和に対し、そうした左派知識人は「株を持っている金持ちだけが得をする」と言った。ところが、実際は失業率が下がって、労働者が恩恵を受けている。
また「へたれ左翼」は、「もう成長は不要」と主張し、成長も毛嫌いする。ここ20年間、日本の経済成長率が世界でビリであることも知らないのだろうか。成長すればパイが大きくなり、労働者の取り分も増えるのだが、左派知識人はそこまで頭が回らない。この点を、安倍総理は見逃さず、突いているわけだ。しかも、賢く一般論・抽象論にとどめ、個別論・具体論には立ち入らない。
本来であれば、外交・安全保障の分野で、右派と左派は激しく対立する。しかし、経済分野で、日本の左派は劣化が激しく、その余波で、外交・安全保障での右派・左派の対立の中で本来の左派らしさが失われている。一体、日本の左派はどこに行くのだろうか。
『週刊現代』2014年10月25日号より
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