経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *基本内容の「ニッポンの理想・2兆円でできる社会」もご覧ください

批判の鋭さと救いのなさと

2014年09月14日 | 経済
 「相変わらず鋭いですなあ」と思いつつ、それゆえ「救いのなさ」も感じてしまう。伊東光晴先生の新著『アベノミクス批判 4本の矢を折る』を読んでの感想である。円安株高は時流に乗っただけかも知れず、公共事業も言うほどでなく、成長戦略に具体策はないのかもしれないが、それではどうすれば良いのだろう。経済の停滞の原因として、人口減少が示唆されているだけに、甘受するしかないという帰結になってはよろしくあるまい。

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 筆者は、オールド・ケインジアンだから、需要管理を極めて重視している。また、ケインズ理論の本質はリスクの捉え方だと理解している。結局、経営者は、金利や税率より、遥かに強く需要動向に設備投資の判断を左右されているのであって、追加的な需要の安定が決定的に重要であり、そのようにする経済運営が欠かせないと考えている。

 しかるに、アベノミクスは、政策の成せるものかはともかく、3月までは、所得や雇用を順調に伸ばしてきたのに、一気の消費増税によって、成長を失速させてしまった。増税を1%に抑え、緩やかに負担を増やしていたなら、成長は維持され、税率10%にするのが1.5年遅れたにしても、基礎的財政収支は、2025年頃には赤字を解消していただろう。

 裏返せば、容易なはずの「穏健な財政運営」が、なぜ、これほどまでに、日本はできないのか。いつも性急で過激さに走ってしまうのは、いかなる訳かを考えねばなるまい。民主党政権下でも、リーマン・ショックは一服したとして、いきなり10兆円の経済対策を撤収したりと、さかのぼれば、1997年以来、枚挙に暇がない。日本人も、今度こそは悟ってもらいたい。

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 さて、第1章には、金利低下が効かない根拠の「オックスフォード調査」や「経済企画庁調査」があって、懐かしく眺めたりもしたが、やはり、新著でおもしろいのは、第2章の為替や金融緩和を巡る国際政治経済学だろう。アベノミクスの下での円安の背景には、為替介入と資金調達の時期のズラしがあったのではないかとする指摘は興味深い。

 他方、第2の矢に対する「国土強靭化計画は実現されない」という批判には、物足りなさを覚えた。実は、本コラムは、安倍政権の財政について、2013/1/20に、前年度と規模に大差がないと分析し、公共事業による押上げは期待できないだろうと判断していた。ところが、実際は、財政規模は変わらなくとも、ようやく復興予算の消化が進み、全国へのバラ撒きも執行に功を奏して、2012年に伸び悩んでいたものが、2013年には期を追って水準を上げて行った。

 これは、筆者も読み間違った意外な展開だった。その後の消費増税とセットで決めた2013年度補正の追加は、足元の官民の建設需給の逼迫ぶりからすれば、余計だったと言えようが、そうなるまでは、成長の引き上げに効果があったと評価できよう。特に、2013年の後半は、円安による物価上昇で停滞し始めた消費に代わって、成長を支える役割を果たしている。

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 アベノミクスの成果で不思議なのは、2013年前半の消費の急速な盛り上がりである。世間的には、円安株高による資産効果と言われたりするが、これには留保が必要だ。家計調査の勤労者世帯では、有価証券の売却収入は年間で1万円足らずであり、そもそも、2013年度の株式保有額は80万円に過ぎず、前年度から13万円、前々年度からは3万円しか増えていない。資産効果とするには、数字の上で苦しいものがある。

 そのため、本コラムでは、消費者態度指数を基に、景気底入れによる雇用環境の改善が消費の盛り上がりを促したという解釈をしている。ここで言いたいのは、2013年前半の成果を見て、金融緩和をすれば、少なくとも資産価格は上がるから、これで消費のテコ入れができるだろうと、安易に考えてはいけないということだ。資産効果は目立つものだが、百貨店の売れ行きだけで消費を牽引できないのと同じで、頼りにするには危ういのである。

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 アベノミクスの第1の矢は、時流に乗っただけ、第2の矢は、増やしてないのに成果を上げた。上手く行ったのは、あえて言えば、流れに棹を差したからで、逆らわなかったのが功績だった。そして、消費増税で逆行し、一敗地にまみれようとしている。成長を失ってしまうと、経済対策は、財政再建とのバランスの取り方が極めて難しくなる。一気の増税なぞしていなければ容易にできたことを、わざわざ難しくしているのだ。

 景気が失速していく中で、公共事業は逼迫して追加が難しく、法人減税をしたのに機械受注は下を向く有り様である。本当は、家計に購買力を追加することが必要になってきており、「2兆円でできる社会」に書いたようなことをしなければならないが、財政当局が「お天気さえ戻れば」と願いをかけているうちに、手遅れになりそうである。こうしておいて、米寿を迎えなんとする伊東先生に「救い」まで求めるのは、やはり甘えというものだろう。


(今日の日経)
 巨大銀に新資本規制。中国工業生産5年8ヵ月ぶり低水準。中国景気の減速鮮明。

ジャンル:
経済
キーワード
アベノミクス 消費者態度指数 経済企画庁 基礎的財政収支 ケインジアン リーマン・ショック
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