二宮清純さん 悲観的に計画して楽観的に実行する。「準備力」がすべての基本 MyPremiumTime

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障害者スポーツとメディア

 最近よく取材するのは障害者スポーツです。パラリンピックに出場する選手に話を聞くと、その多くが一般のスポーツはスポーツ面で取り上げられるのに、自分たちは社会面で扱われることに不満を持っています。世間は障害者スポーツを同情の対象として見てしまいがちですが、彼らはアスリートとして見てもらいたいのです。「私たちに勇気を与えてくれてありがとう」みたいな論調が多いじゃないですか。それは彼らに失礼だと思うんです。別に人に勇気を与えるために戦っているわけではなく、自分の限界に挑戦したい、自分の技術がどこまで通用するか試したいという気持ちがまずあって、結果として人々に勇気を与えられればうれしいと考えています。ですから僕は、彼らをアスリートとして取材して記事を書いています。
実際に障害者スポーツを見ると、その激しさに多くの人が驚くと思います。純粋に競技としておもしろいんですよ。けれども、日本は欧米と比べてその認識に差があります。
日本の記者が男子プロテニス選手のロジャー・フェデラーにインタビューしたときに「なぜ日本のテニス界には世界的な選手が出てこないのか」と聞いたらしいんです。するとフェデラーは「何を言っているんだ君は? 日本には国枝慎吾がいるじゃないか!」と言った。国枝慎吾とは2008年の北京パラリンピックで金メダルを獲得した車椅子のテニスプレーヤーですが、残念ながらこの国のジャーナリズムの障害者スポーツに対する認識はまだその程度ということでしょう。自戒を込め、僕は競技としての素晴らしさをそのままダイレクトに伝えるよう心がけています。それによって、少しずつでも認識が変わっていけばいいですね。

夫と語らう1日の終わり

 仕事のストレスを解消するために趣味に打ち込んだり、リラックスするための時間をつくったりする人が多いと思いますが、僕には何もないんです。ほんとうはあった方がよいのでしょうが、なんといっても趣味を仕事にしてしまった人間なので(笑)。
徹夜で原稿を書けば疲れるし、取材で移動すればやっぱり疲れます。けれどスポーツが好きで、書く作業も好きなので、休みたいとは思わないんですね。だからオフはほとんどありません。これが幸せなのか不幸なのかはわかりませんが。
唯一、僕がリラックスできる時間があるとすれば、それは取材や講演会で訪れた土地でふらりと立ち寄る小さな旅でしょうか。僕は昔から地図が好きだったので、全国どこでもある程度わかるんです。ここまで来たらあのまちまで行ってあの料理を食べよう、あの景色も見ておこうとか、そういうのが好きなのです。
温泉も楽しみですね。ちょっとした空き時間があれば自分で探して温泉に入りに行きますよ。温泉場は感覚で見つけます。ガイドブックには頼らずにね。もし期待外れでも、それが自分の選択だったんだから後悔しません。移動する電車や飛行機の窓から見える景色も好きですね。いつまでも飽きもせず、子どもみたいにずっと眺めています。
考えてみたら、やっぱりすべてが仕事に結びついていますね(笑)。しかし、それが僕にとっての至福の時間なのでしょう。

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プロフィール

スポーツジャーナリスト/
株式会社スポーツコミュニケーションズ
代表取締役
二宮 清純(にのみや せいじゅん)さん
1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙の記者などを経て独立。2000年に株式会社スポーツコミュニケーションズを設立し、代表取締役となる。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグなど国内外で取材活動を展開。その鋭い分析力と発信力を活かし、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど活躍の場は幅広い。主な著書に『プロ野球の一流たち』『スポーツ名勝負物語』『勝者の思考法』ほか多数。