IDEAS + INNOVATIONS

WIRED VOL.12

WIRED VOL.12

alt
 
MOVIE

「消費」されない映画をつくるために。巨匠ツァイ・ミンリャン監督の挑戦

突然の引退発表から1年。台湾映画界の巨匠、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督最後の長編作品『郊遊 ピクニック』が2014年9月6日(土)公開される。映画を離れ、監督はどこへ向かうのか。「美術館で作品を観せたい。映画の上映に革命を起こしたい」。さらなる表現の可能性を探り、監督の足は美術館や舞台へ向かっている。

 
 
このエントリーをはてなブックマークに追加

TEXT BY AKIKO ABE

郊遊』には3人の女性が登場するが、主人公の家族との関係は説明されない。(C)2013 Homegreen Films & JBA Production

昨年9月のヴェネチア国際映画祭。『郊遊』上映に合わせた記者会見で、監督は突然長編映画製作からの引退を表明した。デビューから20年余り。長編10作品のほとんどがカンヌ、ヴェネチア、ベルリンの世界三大映画祭で賞を獲得してきた。世界的に高く評価されるなかでの引退表明は、内外に波紋を呼んだ。監督は当時の発言を振り返る。

「映画を撮ることは、神に定められた運命と思ってきた。神様はわたしにたくさん贈り物をくれた。しかし、体を壊し、撮影に疲れを感じるようになった。神様に撮りなさいと言われても、撮りたくなくなったんだ」

巨匠ツァイ・ミンリャンの集大成

最後の長編映画となる『郊遊』は、ツァイ作品の集大成といえる。これまで一貫して描いてきた都市に生きる孤独、愛の不条理が、ひとつの家族を通して映し出される。舞台は台北。主人公の男性(リー・カンション=李康生)は不動産広告の看板を掲げ、日々幹線道路に立ち続ける。風が吹いても、雨が打ち付けても、微動だにしない。男には息子と娘がいる。子どもたちはスーパーの試食で腹を満たす。

3人が住むのは、水道も電気もない空き家だ。公衆トイレで歯を磨き、水を浴びる。湿ったマットレスに川の字で眠る。娘が買ってきたキャベツには顔が描かれている。夜、父はキャベツに枕を押し当て、突然むさぼるようにかじり、涙を流す。

家族のほかに3人の女性が登場する。寝息をたてて眠る子どもたちの脇に座り、いとおしそうにその髪を梳く女性。スーパーで娘の髪を洗ってやる女性。廃墟の壁画に見入る男を後ろから抱き締め、無言で涙を流す女性。3人の女性と家族の関係は説明されない。時系列もはっきりしない。描かれるのはただ、6人の日常生活の断片である。

主人公の家族3人は、スーパーの試食で腹を満たす。(C)2013 Homegreen Films & JBA Production

 
 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
SHARE A COMMENT

コメントをシェアしよう

 
WIRED Vol.13 Gallery Interviewbanner

BACK TO TOP