くらし☆解説 「日本の先生 自信がなくて大丈夫?」2014年07月22日 (火) 

早川 信夫  解説委員

(岩渕キャスター)
夏休みに入った学校も多いと思いますが、日本の先生が大変なことになっているという国際調査の結果が先日まとまりました。どう大変なのか、早川信夫解説委員に話を聞きます。
 
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Q1.タイトルが「日本の先生 自信がなくて大丈夫?」となっていますけれど、どういう結果だったのですか?

A1.日本の先生は、世界一たくさん働いているのに、自分の指導には自信が持てない、これで大丈夫なのかという結果です。この調査は、OECD・経済協力開発機構が世界34の国と地域の中学校の先生を対象に去年行ったものです。日本は先生と校長、合わせて3700人から回答がありました。
 
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「生徒に勉強ができると自信を持たせる」ことができていると答えた割合が17.6%。
参加各国の平均85.8%に遠く及ばないばかりか、世界で最も低くなっています。次に低いチェコでも半数を超えています。日本の場合、生徒に勉強ができると思わせるだけの指導ができていると自信が持てる先生の割合が低い、裏返すと、自分の指導に自信が持てない先生が多いことになります。ほかの同じような設問への回答も軒並み低く、世界の中で突出して自信がないことが浮かび上がりました。
 
Q2.どうしてそんなに自信が持てないのでしょうか?

A2.忙しすぎることが要因の一つと考えられます。
 
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調査の結果、1週間当たりの勤務時間は、日本の先生は53.9時間と世界最長でした。
各国平均の1.4倍も働いています。どうしてそんなに忙しいのかとみてみますと、授業に使った時間は各国平均より短い。その代わり、部活などの課外活動に使った時間は平均のおよそ4倍、事務作業も2倍近くにのぼっています。部活の指導や事務作業に追われて、授業でこどもたちに向き合う余裕がない。そうしたことが自信のなさにつながっているとみられます。自分の指導に自信が持てなければ、こどもたちに自信をつけさせることはできません。
 
Q3.先生の数が足りないということなんですか?

A3.たしかに、現場からは先生の数を増やしてほしいという声が上がっています。しかし、義務教育を担う先生の人件費についての負担が文部科学省予算の3割近くを占めていることもあって、政府内部には、財政難の折、これ以上人を増やすことはできないという意見が多いのも確かです。与党の中には「先生は忙しい忙しいというけれど働き方が悪いせいだ」とか「先生を増やすと結局は組合員を増やすことにしかならない」といった否定的な意見が根強く、なかなか先生を増やす機運が盛り上がりません。
 
Q4.では、先生が自信を取り戻すために、どうすればよいのでしょうか?

A4.先生を増やせばよいのですが、それを待っているわけにはいきません。私たちができることを3つ上げたいと思います。
1つは、「忙しくて当たり前」からの解放を。2つめは、「地域力」で支援を。3つめは、「授業に努力を惜しまない」ことで評価を。この3つです。
 
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Q5.日本人みんなが忙しくしているのに「忙しくて当たり前」からの解放をと言われてもピンときませんが…?

A5.先生なんだから忙しくて当たり前という考えを見直してはどうか。先生は、こどもたち相手なので残業を前提とした働き方になっていて、原則タイムカードはありません。先生自身も勤務時間の意識が薄く、たとえば、学級通信に「毎日午後8時まで学校にいるので何かあったら遠慮なく連絡をください」と書いてあったという話を聞きます。いくら残業を前提にしているからと言って、これだけの負担をかけてしまってよいのか、考え直す必要があります。
 こうした忙しさから、心の病で学校を長期間休んでいる先生は1年に5千人あまり。この10年で2倍に増えています。こどもに何かあったら先生には学校に駆けつけてもらわなくてはなりません。何もない時は、「先生も早く帰ったら」と声をかけて、心に余裕を持ってもらうことが、まずは自信回復の一歩ではないかと思います。
 
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Q6.2つめは、「地域力」で支援を。どんなことが考えられるのでしょうか?

A6.先生が一人で頑張っているんじゃないと思えるように、部活やスマホなど先生が苦手なところは地域の人たちにカバーしてもらったらいいのではないかということです。
 
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先生には、自分の仕事を抱え込んでしまうという職員室文化がしみついています。そこで、地域の人たちが学校に外からの風を吹き込むことが必要ではないか。先生は、バスケットボールをやったこともないのに部活の顧問になったり、スマホの使い方次第でいじめにつながるとはわかっているけどどう扱えばよいのかよく知らなかったりします。そんな時、地域の人たちが先生の代わりに教えたり、先生と一緒に指導にあたったりする。先生にとっては支援を受けているというだけでなく、自分自身の学びの場にもなります。
 
Q7.中には逆に、仕事が増えると思う先生もいるのではないですか?

A7.たしかにそうした声は耳にします。しかし、食わず嫌いみたいなもので、実際にやってみたら、案外いいじゃないかということになったりします。こうした取り組みが行われている地域では、「忙しい、忙しい」と言っていた先生の間から「教えるのが楽しくなった」という声を耳にします。保護者からクレームが来たときに強い味方になってくれるかもしれません。だまされたと思って地域の人たちを受け入れてみてほしいと思います。
 
Q8.3つめは、「授業への努力」で評価をということですね?

A8.先生にあれもこれも求めず、とにかく授業をキチンとやり、そのための努力を惜しまない「自ら学ぶ姿勢を示してくれる」先生を評価することではないかと思います。
かつて荒れた学校から学力トップに立った学校を取材したことがあります。学校が荒れて、地域からも見放され、先生たちは生徒指導にくたくたになっていた。どうしてよいかわからない。そんな時、先生たちは授業をもう一度ちゃんとやろうと始めた。すると、暴れていた生徒が一人、二人と教室に戻ってきた。わかりたいと思っていたのに、わからなかった。だから暴れるしかなかった。授業がわかり始めたら学校がおもしろくなってきたというのです。それがこどもたちの自信につながり、先生たちの自信にもなったということです。先生も教えるのが楽しいと感じられればその後姿を見てこどもが育つ。そんな関係ができると自信回復につながるのではないかと思います。
 
Q9.保護者や地域の人たちが頑張っただけでは、まだ足りない感じがしますが…?

A9.今の教育改革では、英語をもっとやれとか道徳教育を徹底しろだとか、こどもに考えさせる教育が必要だなどとやることばかりが増える傾向にあります。本当に改革を進めるには、国や自治体が学校にヒト、モノ、カネをつぎ込むことが必要なはずなのですが、それがなかなか進みません。それならば大人の責任としてこどもたちのためにできることから一歩ずつ進めていくほかはありません。そして必要なことを現場から声を上げて、行政の重い腰を上げさせる、そうしたことが必要ではないかと思います。